ザ・ビート「Hands Off... She’s Mine」 ー ロックンロールの奇術師#6


“Hands Off... She’s Mine” The Beat
「ハンズ・オフ... シーズ・マイン」 ザ・ビート


ザ・スペシャルズやマッドネスほど名前が挙がることこそないものの、ザ・ビートというバンドは、2トーン/ブリティッシュ・スカ・ムーヴメントから起ち上がったバンドの中でも、ブリティッシュ・ロック史上でなかなかに重要な地位を占めるバンドだ。前回までのマッドネス『キープ・ムーヴィング』のレヴューでも随所で触れたジェネラル・パブリックのデイヴ・ウェイクリングとランキン・ロジャーはザ・ビートの主要な一翼を占めるメンバーであったし、もう一翼の主要メンバー2人:アンディ・コックスとデイヴィッド・スティールは後にファイン・ヤング・カニバルズを結成することになる。ドラマー、サキソフォニスト含めての6人編成バンドから、2組4人ものソングライターにしてバンド・リーダー/プロデューサーでもあるミュージシャンが出て活躍を続けるというのは、殊にこうした「ムーヴメント出身」のバンド群にあっては相当に珍しい。あのザ・ポップ・グループに於いてすら、元メンバーがオーガナイザー/リーディング・ソングライターとなったケースは僅少なのだから。



で、そのザ・ビートはデビュー時から、既にある種求道派と呼ぶべきスカ/ロック・ステディ/レゲエ/ダブへの通っぽく熟練を感じさせる本格っぷりが2トーン勢の内でも目立つバンドだった。本場ジャマイカのオリジナル・スカ時代からのヴェテラン・サックス奏者のサクサを擁し、ジャマイカン・ルーツのランキン・ロジャーのトースティングをフィーチャーしている、みたいな点を抜きにしても、そのどこかクラシカルでノスタルジックで’50年代的ハッピネスの香る音楽スタイルとサウンドには、粗雑に ”パンクの影響を受けて” 云々では説明のつけようのないコアでエンスーで幅広い探究心と熟達ゆえの緩急自在な上級メソッドが窺える。



ファースト・シングルで意外なようで正中を突いたスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの「Tears Of A Clown」のカヴァーを放ったザ・ビートは、セカンドの「Hands Off... She’s Mine」で持てるポテンシャルをパーフェクトかつポップに露わにする。イントロから僅か30秒、ファースト・ヴァース&コーラスの終わる時点までで既に、ザ・スペシャルズでもマッドネスでもお目にかからないタイプのスカ系譜の技の数々がさらりと軽々と披露されている。メジャーどころならザ・ポリスのスチュワート・コープランドが名高い、あのロックからは遠く異質な意表を突くドラミングのアクセントの数々。カリカリと空ピックで刻み続けるセカンド・リズム・ギター。だがその程度はまだ序の口で、曲が進むにつれわれわれは、ラテン・ポップ・ジャズやカリプソやダブに亘るまでの’50、’60年代の環カリブ海ミュージックの知られざるヴィンテージを聴かされているかのように、エキゾティックかつウォームでハッピーな音像空間に酔わされ頬を緩まさせられる。



ザ・ビートは一貫して曲のクレジットを(ほぼ)全員の連名にしているため確かなところは定かでないが、後のジェネラル・パブリックでのそれからも窺い知れる圧倒的にメイン度の高いソングライターはヴォーカル&ギターのデイヴ・ウェイクリングで、その巧緻で完全主義のソングライティング、殊にソング・ストラクチュア上の詰めの入念さはパンク/NW直後期にあっては異例なほどで、聴く者は3分弱の間に1度たりとも埋め草・繰り返しでの退屈を味わうことがない。オプティミスティックな旧き良き時代の汎ブラック・ロックンロールの陽気さのレプリカの奥に、キャリアの初っ端からプロデューサー/ヴィジョナリー体質を持ち合わせていた求道肌ミュージシャンのこれでもかこれでもかの熱意が垣間見える。「オリジナル」の魅力の骨子を自家薬籠中のものとすると同時に、それをミックスし増幅し濃縮してぎゅうぎゅうに詰め込み必殺の1チューンとして提示せんとする欲張りな異形のロックンロール魂がそこにはある。



ミュージシャン個々人の確かな音楽的ヴィジョンは、時に若かりし頃の仲間集団を冷徹に分かつ。ヴォーカル&ギターとヴォーカルのウェイクリング&ロジャー組はジェネラル・パブリックへ、ギターとベースのコックス&スティール組はファイン・ヤング・カニバルズへと、汎ブラック・ミュージック志向を各々独自に抱え持つメンバーたちは、恵まれざるその後のザ・ビートのキャリアの内に次なるヴィジョンを固めていった。まったくもって哀しくないその別離は、その後アメリカでも一時ながら大輪の花を咲かすことになる。


  


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