XTC最初の1枚に『スカイラーキング』

前回を受けて「XTC最初の1枚」を挙げるなら8枚め『スカイラーキング』がもっとも妥当・適切でハズレと目される可能性がもっとも低い1枚だろう。時系列順に気に入らないアルバムまでレヴューしていたのではキリがない。よっぽどロックロックした英国ポップ/ロックしか聴かない人を除けば、この『スカイラーキング』は万人におすすめできるXTCアルバムの筆頭だ。「もっとこうこうこれこれなトコロを求めてるんだが」という人もここからスタートして、前にもしくは後ろにその探索の手を拡げていけばいい。何にせよハズレ曲の少なさ(せいぜい1曲)から言っても『スカイラーキング』はベストなのだから。



『スカイラーキング』にもしXTC成分で足りないものがあるとすれば、強烈にフリーキーなギター・サウンド/プレイや風変わりで大胆なリズム/ドラム方面でのアプローチ、となろうが、だからといってこのアルバムにそうしたXTCの美点が欠落したり猫被りで失われていたりするわけではない。強いて言えばこのアルバムでは、楽曲単位の完成度の高さと通して聴くに適したアルバム全体の整合感ある一貫性に重きが置かれている、とは言える。激しい、というか決定的で激烈で必殺な1曲というのはこのアルバムにおいては確実に「浮く」。XTC屈指の「名曲」のひとつではある「Dear God」がイギリス・日本でのオリジナル版ではアルバム未収録なのも当然なのだ。



書籍『チョークヒルズ・アンド・チルドレン』によれば、アンディ・パートリッジはこのアルバムをそう高く評価していないか、もしくはアンビヴァレントな評価をしているわけだが、ファンにせよそうでないリスナーにせよ、『スカイラーキング』は充実の円熟のフル・スペクトルのXTCの魅力が過不足なくというにはあまりにも充分な形で表れている紛れもない傑作であり、ヴァージン・レコードやトッド・ラングレンの意向にアンディが不平不満を唱えていたとしても、むしろ逆説的にXTCのポテンシャルが十全に活かされた名アルバムであるのに変わりはない。それは「おいおい気負うなよ、パートリッジ君。キミらが最高のロック/ポップ・バンドであるのはまちがいない。ここらでいっちょ、いつものやりたい放題のマニアックなトライアルを封印して文句なしの極上英国ポップのアルバムを作ってみりゃいいじゃん?これまで喰わず嫌いだったヤツらも驚くぜ?」という外部のアドヴァイスが、利かん坊で実験大好きなリーダー:アンディの丁度いい手綱となり、その時々の興味傾向に引きずられがちなXTCのアルバム作りが初めて適切なクオリティ・コントロール/プロダクション・デザイン下に置かれた例、だとも言えるだろう。



このアルバムを挟むように変名バンド:ザ・デュークス・オブ・ストラトスフィアによる'85年『25オクロック』'87年『ソニック・サンスポット』が発表されているのも見落とせない要素だ。その後デュークスはXTCに吸収一体化されたと宣言されるが、その一体化はすでにこの『スカイラーキング』で始まっているのだ。殊にA面後半の3曲のザ・ビートルズ/ザ・ビーチボーイズ風味はデュークスの『ソニック』ともはや変わるところはほとんどなく、パロディ/オマージュとしてのみならずビートルポップへの本気のトライアルをもXTC名義でやっていく用意/覚悟がこのアルバムから完全なものとなった証左と言える。



紙面をおそろしく食ったので各曲詳解は次回に譲り、ここではXTC全アルバム史を俯瞰した上での『スカイラーキング』の位置づけ、というか売りと関連性/系譜を簡易ガイダンス的に語ってシメとしよう。

・「Summer's Cauldron」「Grass」は、この時点である意味一段落ついたアンディの汎世界的民族音楽グルーヴ探求の集大成的な側面がある。東洋的とも中近東的とも言えるフレーズが目立つが、そのダイナミズムは『ブラック・シー』『イングリッシュ・セトルメント』『ママー』でXTCが手を替え品を替え長らく追及してきたカリビアン、アフリカン、ブリティッシュ・トラッドへの実にNW的なアプローチの到達点であり、もはや自家薬籠中のオハコとなり、ゆえに出所不明のブリティッシュ・ポップに収束され得るのだ。

・知られざる、というかそう分類されることこそ少ないものの、XTCはパワー・ポップを得意とするバンドでもある。「That's Really Super, Supergirl」や「Earn Enough for Us」は、初期コステロの殊に「Accidents Will Happen」等をもパワー・ポップの重要な一翼とみなす人なら捨て置けない佳曲だ。キラキラ感とオモチャっぽさと端正さがロックンロールの痛快なかっこよさと同居するこうした曲は、もっとひねくれてつっぱった過去のXTCの曲群ではその輝きが時に垣間見える程度にしか披露されてない。この辺のキラキラ痛快パワー・ポップ道は次の『オレンジズ・アンド・レモンズ』の「The Mayor Of Simpleton」で高次元に結実する。

・A面後半に立て続けで連なる「Ballet for a Rainy Day」「1000 Umbrellas」「Season Cycle」は、それまではひねくれこねくりまわされてきたアンディのビートルズ素養が素直に真っ正面から取り組まれ何のてらいもなく表された名曲群。これまた『オレンジズ・アンド・レモンズ』で更に顕著になる路線だ。

・どっちかと言えば技巧に欠け単純で地味なソングライティングの多いコリンの楽曲のこのアルバムでの充実度は、XTC史上でもピカイチだ。「Grass」「The Meeting Place」でノスタルジックで牧歌的な英国の香りを、「Big Day」で スコティッシュ・トラッド風味を、「Dying」でビートル/キンク性を提供し、「Sacrificial Bonfire」ではそれらを総括しアルバムの流れさえ総括するような域に達している。アルバム中の精神的な流れに各曲がピタリとはまりアンディの楽曲群と補完・呼応し合い、英国とは、英国人とは何かを美しくも慎ましやかに、だが力強く語る結果になっている。『イングリッシュ・セトルメント』から『ママー』で見せた汎英国トラッドへの静謐なアプローチが遅れて結果を見せているとも言えよう。

・おもちゃ箱的でファンタスティック、汎ヨーロッパ的物語図像を音で表すアンディの音楽作法のひとつの極みが、「Mermaid Smiled」「The Man Who Sailed Around His Soul」に見てとれる。それは、『ドラムス・アンド・ワイアーズ』の「Helicopter」「Scissor Man」、『イングリッシュ・セトルメント』の「Snow Man」に代表される童謡的/ノヴェルティ・ソング的な、「ロック的」である必要のない純然たる「ポップ」の楽しさと力強さだ。アンディのモダン・ジャズへの好みがもっともポップに表れた例なのかもしれない。と言っても「モダン」・ジャズのあのしちめんどくささはなく、美しく力強い文句なしのポップ。





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