ミッキー&シルヴィア「Love Is Strange」 — ロックンロールの奇術師#3


"Love Is Strange" Mickey & Sylvia
「ラヴ・イズ・ストレンジ」 ミッキー&シルヴィア


元々の、つまり'50年代の「ロックンロール時代」にはいまさら聴くべきロックンロールなぞない、と考えるロック/ポップ・リスナーは多いだろうし、実際パンク/NWでロック/音楽に目覚めた頃の私自身も多分にそうだった。そうした一種の若気のピュアリスト指向はたいてい遡り追体験再履修の内にどんどん消えていくものである。ポップ・ミュージックは、ロックンロールは、リズム&ブルーズは、狭義の「ロック」にも増して遼遠な沃野を持っている。



FEN/AFRTSで流れていた名番組『ディック・クラークス・ロック・ロール・アンド・リメンバー』は、'50、'60、'70年代の驚異的なポップの数々を、ぴっちりブリテン寄りのリスナーだった私に教えてくれた。アメリカ人なら誰もが知る — そしていわば「懐メロ」の類いと打ち棄てるタイプのクラシックの多くに、私は未知のワンダー/マジックを様々に見出だした。その発見の歓びは、その昔ザ・ビートルズやザ・キンクスの連中が出くわしたであろうものに通じている。



1956年、既にロックンロールが周知のポップ文体となっていた時期のヒット・ソングでありながら、ミッキー&シルヴィアの「Love Is Strange」は、奥にどよめきうごめく濃厚な複合型ファンクネスで海千山千のロック/ポップ好きをもノック・アウトする異形のポップ至宝だ。まずもってわれわれは、その異様に筆圧の強いイントロのギターのリフ/テーマからガツンとやられる。その野卑と洗練を併せ持つ発明的なまでのサウンド/プレイは'62年のブッカーT&ザ・M.G.'s「Green Onions」や'64年のザ・キンクス「You Really Got Me」に負けず劣らずショッキングにパワフルだ。ジャズ/ブルーズのワイルデストなギタリスト:ミッキー・ベイカーの濃厚ブラックなフィールが、凡百の甘々な3分バブルガム・ポップからこの曲を初っ端から最後まで際立ったものにしている。



10代から歌手として活躍し、後にはシュガー・ヒル・レコーズを立ち上げた生涯の黒人音楽クイーン:シルヴィア・ロビンソンの艶っぽく太く深いヴォーカルは、殊に語りの掛け合いでソウルの醍醐味を見せつける。"Come here, Lover Boy!" の堂に入った姉御ライクなこぶしの効きは尋常でない。ある時は上をある時は下を、とフリー・フォームにさりげなくハモる男声・女声のユニゾンも斬新に楽しい。



ボ・ディドリーによるオリジナルの奇っ怪にして唯一無比のアフロ・キューバン風味の異能グルーヴは、後のキット・ドラム中心型ビートの及ばない不思議でエキゾティックなこのバッキングにも活きている。明らかにラテンなキンキンポクポクしたパーカッション群が、跳ね回るかわいらしくせわしないピアノが、未知の汎アメリカ汎ブラック・ミュージック時空連続体の大海を幻視させ、クロスオーヴァーな'50年代への再三再四の再履修招待状となっている。



失意の内にアメリカを離れパリに渡ったミッキーと、自身の衣鉢を後代のヒップ・ホップに渡したシルヴィア。げに遼遠なるかなポップ、ブラック・ミュージック。荒削りにもウォームなこのチューンのサウンド空間に、ロックンロールのマジックが幾重にもリヴァーブされて聴こえるだろう。


  


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