アージ・オーヴァーキル「Sister Havana」— パワー・ポップの魔術師#17


"Sister Havana" Urge Overkill 
「シスター・ハヴァナ」  アージ・オーヴァーキル


1990年から'91年にかけて、アメリカのロック界は一気にパワー・ポップ黄金期に見舞われた。ジェリーフィッシュ、レッド・クロス、マシュー・スウィート、ニルヴァーナらが、パンク/ブリティッシュ・ロックの衣鉢を継ぎ発展させたそれぞれのロックンロール・フィールとラウドネスとリズム認識で、アメリカでも「本場」ブリテンでも細々とした鉱脈に留まっていたそれをメインストリームに伸し上げた。中でもマシュー・スウィートの「Girlfriend」、ニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」は、その荒々しくも粒立ちブリリアントなサウンドで「ロックの復権」にまで貢献したと言えよう。



パワー・ポップ/ロックンロールの傑作誕生劇ではよくあることだが、そのミューズの来訪はままならず長続きしない。「発明的」とさえ言える「その1曲」の輝きは元来拡大再生産には向かないものなのだ。ところがどっこい '93年、アージ・オーヴァーキルはこの「Sister Havana」で、驚きのパワー・ポップ・オーヴァースロウをやってのける。



パンクとソウル/ファンクをルーツとし、キッチュでキャンプな趣味をも併せ持つアージ・オーヴァーキルは、このザ・キンクス型のコード・リフ・チューンを目一杯バロックに膨らます。ニルヴァーナが火を点けやがてU2型アリーナ・ロックにまで敷衍される「ヘヴィ・ロック」を、アージはあくまでロックンロールの枠内で遣い、単位時間あたりのスリル成分を高密度化するのにひたすら尽力する。



スピード感と昂揚感と知られざるポップネスの発見は名パワー・ポップの必須成分で、その途の多くの傑作はその発見・発明の清新さ一発で充分「成れり」となるのだが、「Sister Havana」はそこに留まらない。既に充分に傑作パワー・ポップたるに足る快感原則を見せつけた2コーラスの後にこそ、アージの雑食性と献身性が絶品の冴えを見せる。ブレイク、ソロ、そしてキッスの「I Was Made For Lovin' You」を彷彿とさせニヤリとさせられるミドル・エイト。約1分にも及ぶこの変奏部に「新発見ロックンロールでかっ飛び1発」で片付かない非天才たちの貪欲と発酵の軌跡が緻密にこめられ、ロッカ・バラッドからブリティッシュR&B、ブルーズ・ロック、ヘヴィ・メタル、ソウル、ファンク、パンク、サイケデリックにまで亘るかっこよさ追求の総売り尽し展示場となっている。その勢いをそのままありったけぶちこんだラスト・コーラスは、ソウルフルなアドリブ・シャウトで最後の1秒まで気を抜かせない。



ここまでラウド、ここまでヘヴィ、ここまでハードでタイトでファンキーでブルーズィーでソウルフルでサイケデリックな、そしてなおかつブリリアントでポップなパワー・ポップはロック史上にもさすがにそうない。'50年代から'90年代のあらゆるロックの美と快感を4分弱に詰めこんだこの魔術的傑作チューンは2010年代の現在にあっても圧倒的に新しい。



シャレなのかマジなのか判然としないそのキッチュ趣味も災いしてか、アージ・オーヴァーキルが斯界の大物視されることは少ない。『サチュレイション』ならセンチメンタルに美しいキンキー・ポップ「Back On Me」、劇的にエモーショナルなハード・ソウル「Heaven 90210」を、続く『エグジット・ザ・ドラゴン』なら再びのキンキー・ブルーズ「Somebody Else's Body」、壮大なソウル・オーケストラ「View Of The Rain」をまずおすすめしておきたい。驚くほど真摯で求道型のロック・バンドの姿がそこにある。


  


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