シェリル・クロウ「Solidify」 — 未知なるトランスを夢に求めて#8


“Solidify” Sheryl Crow
「ソリディファイ」 シェリル・クロウ


後のシェリル・クロウがマドンナやレイディ・ガガ並みに「大物」化したために、そこに聴くべき音楽などなかろうという偏見から食わず嫌いで済ませているロック/ポップのリスナーは少なくなかろうが、それはもったいない過ちだ。殊にこのファースト・アルバムにある音楽は、シェリル・クロウというシンガー/ソングライターによるものというよりはシェリル・クロウ&ザ・チューズデイ・ミュージック・クラブというバンドによるものと言うほうが適切なものであるからで、そのバンドのコラボレーションの緊密さとヴィジョンの共有っぷりはエディ・ブリッケル&ニュー・ボヘミアンズのそれに近い。



スティーリー・ダンやリトル・フィートにも似て、黒人音楽とアメリカーナの多様な要素を洗練されたグルーヴ・チューンに落としこむ驚異的な手腕は、大ヒットともなったシングル「All I Wanna Do」の一聴で当時の私を虜にした。トーキング・ヘッズの「Life During Wartime」から ”This ain't no disco” の一節を冒頭に引くその洒落っ気と素養にも興味を惹かれた。そうして買った『チューズデイ・ナイト・ミュージック・クラブ』はヴァラエティと質両方に富んだ良作だったが、その内でも「All I Wanna Do」と並びまた凌ぐほどにトランス愛好者としての私をK.O.した傑作が、5曲目「Solidify」だった。



ヘッズの「Born Under Punches」やブリッケル&ニュー・ボヘミアンズの「What I Am」にも共通する、主役なきミニマル&ポリリズミックな断片フレーズ洪水型アプローチは、この火曜日ごとのバンド・セッションの民主的かつ刺激的なコラボレーションの充実度を物語っている。クロウ以外に共作者として名を連ねる6名ものミュージシャンはいずれも複数楽器のプレイヤーで、多くがギタリスト兼ベーシスト、キーボーディスト、かつソングライターでプロデューサーだ。そこではエレクトリックなモダン・ファンクとルーツ志向のブルーズ、カントリーのテイストが矛盾なく一体化し、濃密なトランス時間を細かに下支えするためだけにそれぞれの楽器/プレイが鳴っている。ノスタルジックだったりメランコリックだったりアースィーだったりのアメリカン・ルーツ・ミュージックの技法が、人力ハウス/テクノのための人力サンプリングの波のように寄せては返す。牧歌的でレイド・バックした酒場ミュージックがオルタナティヴにタイトゥン・アップされニュー・ウェイヴでニューロティックなアメリカーナ・トランスに換骨奪胎されている。スカスカに空けたビート保持ドラミングに時折タメとツッコミの効いたフィル・インでアクセントを入れるのは、ポール・ウェスターバーグの『14ソングズ』でも冴えを見せるブライアン・マクラウド。全くの畑違いでの再会ながらなぜかなるほどと思えたものだった。



ジャム・セッション型、ジャンル・クロスオーヴァー型、セッション - エディット - 再構築型のソングライティング/プロダクションは長続きするチームを産まない。ガビ・デルガドやリジー・メルシエ・デクルーやトーキング・ヘッズの偉大なるレコーディング・セッションや、ザ・スペンサー・デイヴィス・グループの「I’m A Man」「Gimme Some Lovin’」の2曲を見ても明らかだ。トランス・ミュージックの驚くべき成果は、多くが音楽ヴィジョナリーの一時の強烈な幻視によって成り立っている。げに難しきかなトランス・ミュージック。ザ・悲劇、ザ・天佑!


 


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