テレヴィジョン『マーキー・ムーン』 ー ギターはリード、ヴォーカルはバッキング


‘Marquee Moon’ Television 
『マーキー・ムーン』 テレヴィジョン


ブリティッシュNWの多くの先駆にしてギター・ロックの金字塔、みたいな評判から『マーキー・ムーン』に手を伸ばしてみた人の内には、アルバム1曲目の「See No Evil」に軽く鼻白むような期待外れ感を抱く人がいても不思議はないが、A面のその後には傑作が続き、聴き進むにつれて発見の喜びがいや増しに増していくはずだ。その際、ノレるかノレないかを馬鹿にならぬ大きさで左右するのは、数多のかっこいいブリティッシュNWバンドを聴く時と同じ心積もりでヴォーカルに期待すべきでない、という点だろう。テレヴィジョンを聴くということはまず第一にギターのかっこよさを聴くということだ。次にはギター群とベース&ドラムとのコンビネーションの妙を聴くということ。ヴォーカル/歌曲とそのバッキング演奏を聴く、というのは最後にとなるか、もしくはほぼないに等しい。極論すれば、テレヴィジョンにおいては「前で唄っているのはギター」と考えてしまって構わない。一気に聴き応えの上がる2曲目「Venus」を聴く内には、どっちみちあなたはギターにばかり耳を取られている自分に気づくはずだ。



風変わりな意気揚々感が意味不明に美しく力強いイントロのテーマからギターのかっこよさと気持ち良さが満ちあふれる「Venus」は、最初から最後まで一瞬たりとも単音リード・ギターから耳を離せなくなる、いよいよの本領発揮の1曲だ。リズム取りにせよメロディーにせよ、ヴォーカルよりリード・ギターのほうがかっこよく美しくスリリングで饒舌なのだから仕方ない。では、そのヴォーカリスト/ソングライターであるトム・ヴァーレインが無能なのかといえばそうじゃない ー なにせそのギターを弾き、そのギター・メインの曲作りとバンド演奏構成を主導しているのもヴァーレインなのだから。ここに至って聴く者は、ギターの合間合間にヴォーカルを聴いていれば、あるいはギターのバッキング要素のひとつとしてヴォーカルも聴いていればテレヴィジョンを十全に聴くことになる、という逆説の確信にたどり着く。2聴3聴する内には、ドラムもベースもヴォーカルもそれらとギターとのコンビネーションも然るべく耳に入ってくるようになるのを覚えるだろう。セカンド・コーラス後の、シンセ音の中から蛹の皮を脱ぎ捨てる蝶のように立ち上がるギター・ソロという仕掛けもハッとさせられる。

3曲目「Friction」では更に勢いが増し、後のNWに受け継がれる類いのロック・ギターのかっこよさの種が満載。奇怪にも日本の怪談の出囃子もしくは五木の子守唄を想わせるような不穏な音階感のイントロのテーマからオルタナティヴ感が全開で、ニワトリ断末魔ヴォーカルに絡むオブリガートも変幻自在にニューロティック。シーン的・時代的にほぼ同窓生とも言えるDNA/ザ・ラウンジ・リザーズのアート・リンゼイのギター・スタイルの衝撃が、先駆的かつ効果的に予言されてもいる。

A面ラストの4曲目のアルバム表題曲「Marquee Moon」は、言わずと知れたテレヴィジョン畢生の代表曲にして傑作。10分超、3コーラス+ヴァースに長尺のソロとオーケストラルな変奏部を挟む大曲だが、技と魅力のヴァリエーションで飽きさせない。有名な2ギターによる催眠術的なリフ以外にも聴きどころが満載。ザ・テンプテーションズの「My Girl」を直接のインスピレーション源としたと思しき基礎リズム構造がまず興味深い。私見ではザ・ドアーズの「Light My Fire」からザ・ストラングラーズの「Sometimes」「Walk On By」の間に挟まる長尺サイケデリック・ジャム間奏の系譜の一大代表曲でもあり、エコー&ザ・バニーメンをして「The Killing Moon」を産み出させしめた大目標でもあったろう。ビリー・フィッカのしゃかりきで食いしん坊でチャレンジングなドラミングの大胆さと独創性も冴えに冴えアルバム随一。ギター・プレイを褒めだせば枚挙にいとまがないが、間奏最終部の静謐な美しさの海に鳴くカモメ擬態プレイはこの曲の叙情面の密かな必須のシメなのだとは言っておきたい。



オリジナルでのB面に移る、と実は息切れ感が否めないのだが、乗りかかった船で次回に続けよう。だが、このA面の4曲だけでもこのアルバムのアタリ度は十分なのであり、また聴き進める上での心構え的に、A面リピート再履修はその後の能動的な栄養摂取に役立つだろう。


  


にほんブログ村 音楽ブログ 洋楽へ  
にほんブログ村




 プライバシー ポリシー

プロファイル
eakum の音楽レヴュー
Author:eakum
スポンサード リンク






アーカイヴ

全過去記事のタイトル一覧