夏が来〜てもマッドネす〜 — マッドネス『キープ・ムーヴィング』の夏の香り


‘Keep Moving' Madness
『キープ・ムーヴィング』 マッドネス


冬が来〜ればマッドネす〜♪ というのは、1st.から4th.のアルバム・ジャケットのメンバーの服装からも、そのパブ・バンド然とした音楽性や夜と酒の似合うサウンドの手触りからもピッタリ来るキャッチだと我ながら思うのだが、この5th.『キープ・ムーヴィング』では一転、初夏の爽やかさを匂わせる明るくメリハリの効いたブリリアントな音像がまず耳を惹く。前作『ザ・ライズ&フォール』からのシングル「Our House」の延長線上の正常進化と言えるモダン・ポップ・ソウル路線が全面開花し、イングリッシュ・モータウンの、そして『ラバー・ソウル』『リヴォルヴァー』的な黒人音楽独自再解釈型ポップ・ソングの、ひとつの理想形・完成形を示すアルバムになっているのだ。ロック・バンドにとって、ソフィスティケーションは時に原初的パワーを失わせる落とし穴に、もしくはその喪失への言い訳になってしまうきらいがあるが、ここでのマッドネスはどこかいまさら若返ったようなエナジーと意欲に満ち、鉄壁のチューン鉄壁のアルバム作りに気炎万丈で臨んでいる。英語の「summer」は日本語で謂えば「春」のそれに相当するアナロジカルなニュアンスを持つが、アルバム5枚目にしてマッドネスはバンド人生2度目の夏を迎えた、と言えよう。



『ザ・ライズ&フォール』のレヴューから仄かに予告してきたように、その2度目の夏は大きくヴォーカリストの2人:サッグス(グラハム・マクファーソン)とチャス(カール・スミス)のソングライターとしての成長と楽曲制作への関与の拡大に因るものだろう。『キープ・ムーヴィング』制作時、既に脱退を表明していた往時の中心ソングライター:キーボードのマイク・バーソンの3曲への寄与に比して、マクファーソンとスミスはそれぞれ5曲に寄与しており、これはもう1人のヴェテラン・ソングライター:サックスのリー・トンプソンに並ぶ比重だ。マッドネスの身上のかつての大きな二柱:浮かれラプソディとグルーム&ブルーズに加えて、あるいはまた替わって、若く溌剌と躍動し燃え立つ2人のソングライターが新たに再履修したソウル/ビートルポップ風味が、アルバム全体の音像空間にまで清新さとブリリアンスを与えている。



A-1. Keep Moving
スミス、ギターのクリス・フォアマン、マクファーソンの曲。
マッドネスのアルバム史上でも随一の、パワフルでポジティヴでブライトでかつ洗練されたA面1曲目。詩作・譜割り・節回し上のクセは従来と特に変わりないはずのマクファーソンの、ニュアンス豊かなヴォーカルがまず素晴らしい。楽器編成・合奏構築メソッドも「いつものマッドネス」であるはずなのにどこか決定的に新しく響き、全体の音像がプレゼンス鋭く迫り各楽器のキメどころの音の粒立ちもブリリアント。バンドの作曲術・演奏術・合奏術・構成術にかてて加えてクライヴ・ランガーとアラン・ウィンスタンリーのサウンド・プロダクションも冴えの粋に達し、独自のイングリッシュ・モータウン、パワー・ポップ・ソウルとも言うべき濃密かつ軽快なポップ・チューンを生んでいる。このアルバムのリスニング快感の圧倒的高さを軽々と予告するパーフェクトな幕開け。



と、リード序論に力が入って紙面を食ったので1曲目の紹介だけに留まったが次回以降に続けよう。プロダクションに関わる人脈関連のデータと小論もおいおい付け加える必要もあろうし。


 


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