薄めないのに飲み口すっきり — マッドネス『キープ・ムーヴィング』のプロダクションの妙


‘Keep Moving' Madness
『キープ・ムーヴィング』 マッドネス


『キープ・ムーヴィング』の全般に明るく爽やかでメリハリの効いたサウンド・プロダクションは、ファーストからずっとの付き合いであるクライヴ・ランガー&アラン・ウィンスタンリーの、しかしながらここに来て急速に前進したプロデュース手腕にも大きく因っている。前作からのシングル「Our House」に顕著に見られるデイヴィッド・ベッドフォードのストリングス・アレンジ。マッドネスのアルバムからランガー&ウィンスタンリーに依頼することにしたというエルヴィス・コステロの『パンチ・ザ・クロック』からの逆輸入となるTKOホーンズのホーン隊とアフロディジアックの女声コーラス。2トーン時代からの古馴染み、ザ・ビートから転じての2人組:ジェネラル・パブリックのデイヴ・ウェイクリング&ランキン・ロジャーのコーラス/ヴォーカル。優秀なミュージシャン/バンドであるマッドネスの面々の演奏・歌唱を時に敢えて抑えめにしてでも、要所要所を確かな知己のミュージシャンの投入で代替し完璧にスムーズなポップ・アルバムを作らんとする2人のヴィジョンと熟練が、このアルバムの聴きやすさと満足度をさりげなく下支えしている。前回紹介を済ませたA面1曲目「Keep Moving」を聴いても、プレイ的にはどうってことないはずのTKOホーンズのシンプルなアンサンブル・バッキングが、メンバー自身によるたとえばハーモニカや複数サキソフォンやギターの吹きまくり弾きまくりよりずっと効果的なサウンド・テクスチュア作りになっているのが、その典型的な好例だろう。
で、続いては ー



A-2. Michael Caine
スミスとドラムのダニエル・ウッドゲイトの曲。
過去にも度々マッドネスがやってきた、何らかのキャラクターのパラノイアをコミカルに描く類いのポップ・チューン。IRAの情報屋をめぐる当時の時事ネタとも、去りゆく「マイケル」:マイク・バーソンへの何らかのはなむけともみなされる歌詞の内容だが、どちらにせよ曲の価値を大枠で決定づけるようなものではないだろう。むしろこの曲で語るべきは、長らく一種のにぎやかし要員であったチャス・スマッシュことスミスのヴォーカリストとしてもの上達っぷりであり、またアフロディジアックによる女声コーラス・バッキングによるスマートでスムーズなリスニング快感プロダクションの妙であろう。

A-3. Turning Blue
フォアマンとマクファーソンの曲。
既にセカンドやサード辺りからも表れてはいた、マッドネスのパンク/NWとの同時代性の香る懐疑主義的でシニカルでシリアスな苦々しい社会観が、ニューロティックなギクンガクン・ポリリズムの不穏なクールさにずっぱまりにハマった不思議かっこいい独自ロック・チューン。大げさに特筆するほど急速な進化であるかは微妙だが、サッグスことマクファーソンの作詞/ヴォーカル術上の譜割りと脚韻とニュアンス付けの巧緻さは、このアルバムの聴き易くも聴き応えある満腹感の大きな源となっている。この曲でなら「No pie in the sky」と「But a poke in the eye」の対照が個人的にお気に入りのキラーな一節。



想い入れの大きさもあって1曲ごとの語り分量が多くなっているが、続く「One Better Day」がまた屈指の傑作で、足早に済ますのはもったいないので多めのリード付きで次回に回そう。


 


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