各素養の洗練されたアマルガム — マッドネス『キープ・ムーヴィング』のモダン・ソウル・ポップネス


‘Keep Moving' Madness
『キープ・ムーヴィング』 マッドネス


マッドネスのバンド文体や各メンバーの音楽的素養は、1st.『ワン・ステップ・ビヨンド』時からスカ/ロック・ステディのみならず、ブリティッシュ・ポップや’50年代的ロックンロールや、「リズム&ブルーズ」の名の下に総称し得る’40、’50、’60年代のジャズ〜ブルーズ間にグラデーションで拡がるヴァリアント各種をも皮膚感覚で会得しているものだった。彼らのアルバムに多かれ少なかれ常に、ルイ・ジョーダンやキャブ・キャロウェイを想わせる酒場感・ショウ感の大衆的で柔らかなウォームスが満ちているのはその美徳の顕著な表れだろう。



ところがこの『キープ・ムーヴィング』では、新たにソングライティング面で大きく貢献することになったマクファーソンとスミスの、ザ・ビートルズ/ザ・キンクスやモータウン/スタックス・サウンドへの趣味や再履修が、清新で明るくもまた落ち着きのあるレパートリーと基調をアルバムに提供している。クライヴ・ランガーとバンドにも、たとえばデュラン・デュランやワムやカルチャー・クラブやスパンダウ・バレエを向こうに回して張り合っていくための、よりブライトでゴージャスなサウンド/スタイルへの危機感ある希求もあったろう。’84年2月のリリースの前年にはザ・スタイル・カウンシルの「Long Hot Summer」とミニ・アルバムの逆輸入ヒットもあり、ブリティッシュ・ホワイト・ソウル戦線に、「リズム&ブルーズ」や初期モータウンに留まらないフィリー・ソウル、ニュー・ソウル、ジャズ・ファンクの洗練された新味へのトライアル胎動が満ちていたのは間違いない。ちなみにこの『キープ・ムーヴィング』と前後するように、’84年2月にはマット・ビアンコのデビュー・シングル:「Get Out Of Your Lazy Bed」や新生スクリッティ・ポリッティの「Wood Beez (Pray Like Aretha Franklin)」がリリースされている。



A-4. One Better Day
マクファーソンとベースのマーク・ベッドフォードの曲。
マッドネスの数多ある泣かす名曲の中でも、最低でも五指に入る文句なしの傑作。今エントリの長々としたリードの大部分は主にこの曲に向けた露払いで、ナッティ・ボーイズの素朴でエモーショナルな泣かせ曲から格段に進歩を遂げ洗練と老練と一種の恬淡の境地をも加えたこの名曲を紹介するために必須なものであったのだ。いつになく渋く抑えめにも雄弁なトンプソンのサックス、低く深くエッジィに唸る作曲者ベッドフォードのベース・リフ、内容と符割りとニュアンスともに見事に仕上げられたマクファーソンの詞とヴォーカル。ザイロフォン(もしくはシンセ)とストリングスのウワモノ装飾も勘所を押さえて懐かしくも新鮮で、殊にコーラス部ではバート・バカラックによるディオンヌ・ワーウィックの「Walk On By」へのオマージュが感じられる。それら全てが目新しく類のない独自のソウルフルネスを産むのに貢献しており、まったくもって「ソウルフル」に唄い上げることなしに聴く者の魂を震わす、正常進化のマッドネス流ホワイト・ソウルが驚くほどさらっと完熟を見せている。

A-5. March Of The Gherkins
トンプソンとバーソンの曲。
負けじとシニアのソングライター・チーム2人が明るく軽快な曲調のポップ・ソウルで続く。初期の代表的泣かせ曲「Embarrassment」の作詞者でもあるリー・トンプソンはブルーズィーa/oノスタルジックな詞の書き手として実績豊かだが、この曲でも殊にミドル・エイトにその身上が窺える。歌詞中の謎のキーワード:「Tammoland」は、’60年代のノース・ロンドンに存在しこどもたちによる存続キャンペーンが話題となった、グレイト・イースタン鉄道会社の放棄地に自然発生した遊び場、とのこと。

A-6. Waltz Into Mischief
スミスとマクファーソンの曲。
マッドネスにあっては往々にしてアルバム・ラストを飾るミュージック・ホール調の酒場ソング。が、まだA面のラストに過ぎず、しかもいつになくシリアスで厭世的な泣き笑いベースの逆説プロテスト・ソング。トンプソン&バーソンとスミス&マクファーソンの、言わば新旧のソングライター・チームの作風の対照と継承を想うと感慨深い小品。



驚くほどの覇気と新味とヴァラエティとサウンド・プロダクションで、緩急と聴き応え十分にA面が終わり、少しく乱調ながらも捨て置けない傑作・佳曲を含むB面へと続く。


 


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