モビー・グレイプはひとつで十分ですよ!わかってくださいよ!


'Moby Grape'  Moby Grape
『モビー・グレイプ』 モビー・グレイプ


全員(というかほぼ全員)がソングライターであるバンドといえば、忘れてならないのはモビー・グレイプだ。'67年デビュ―のサンフランシスコの5人組。その1st.のジャケ写からの連想か、私はバンクーバー/シアトルあたりの出身だという模造記憶を持っているのだが。



モビー・グレイプの1st.『モビー・グレイプ』(エポニマス)は、実質1枚きりの聴くべきオリジナル・アルバム。2枚めの『ワウ』もその他のオリジナル盤と言い難いものも聴く価値はない。その道ではまさにワン&オンリーなアルバムだ。基本的に「アメリカン・ロック」とジャンル分けされるバンドには、少なくともバンド単位、アルバム単位では惹かれない私だが、もしアメリカン・ロックの魅力を代表する1枚を選べと言われたら迷わずこれを差し出すだろう。



パンク/NWが出自の私は、たとえばレッド・ツェペリンなら「オーヴァー・ザ・ヒルズ・アンド・ファーラウェイ」をXTCの『イングリッシュ・セトルメント』の延長線上で、アメリカの「ヴェンチュラ・ハイウェイ」ならパワー・ポップの文脈で見出し愛好する。ご同輩/同好の士ならデューク・エリントンだろうが'40年代ジャンプ・ブルーズだろうが'50年代ポップだろうがファンクだろうがミニマル・ミュージックだろうが、そんな風に探索/追体験行の途上で好みを拡げていくものじゃないだろうか。そんな私であればたとえばドゥービー・ブラザーズには「ブラック・ウォーター」や「ロング・トレイン・ラニング」にファンク性をニュー・オーリンズ性をトランス性を見出すのであってけっして「アメリカン・ロック」やヒーロー・プレイヤビリティを求めるわけではないのだ。



したがって、私にとっての「アメリカン・ロック」の粋、極地はこの『モビー・グレイプ』に尽きる。これ1枚で聴くべき、興味を抱くべきアメリカン・ルーツ・ミュージックのロック・バンド的展開が、コンパクトかつ濃密に大部分体験できるのだ。しかも『ラバー・ソウル』を思いっきりアメリカン・ルーツ方向に味付けしたような多彩さ、楽しさ、退屈させなさ、短さでできている。5人の我れ先ヤロウどもが1~3分台の楽曲の内にぎっしりギュウ詰めにアメリカ音楽の快感原則を生き急ぐようにテンコ盛りにしてくれている。このブログを好んで読んでくれている音楽ファン(もしいれば、だが)にはけっしてとっつきやすいものとは言い難く、むしろ最初は「うへぇー」となるかもしれないが、以下の簡略なガイダンスに従ってむしろ聴き流しのお寝みアイテムとして使っていれば、じきに捨て置けない愛聴盤のひとつになることは間違いない。



まさにアルバム1曲めのユニークなパワー・ポップ「ヘイ・グランマ」は、ザ・キンクスとブラック・フランシスとCSN&Yとカントリー&ウェスタンの合体、といったカンジだろうか。ナンセンスな艶笑譚を想わせるバカげた歌詞、ぶんぶん行進するように迫る3連シャッフル・ビート、クランチーでフリーキーな牧歌性と狂気を併せて感じさせるギター。その痛快さはバンドの指向性もロック史の文脈とも無関係に無条件にカッコよく文句なしに楽しい。エンディングの遊びにザ・ビートルズとの同時代性が感じられる。

疾走する3曲め「フォール・オン・ユー」でわれわれはますます判らなくなってゆく ― カントリーとブルーズとブギーとロックとポップとフォークの差とは何か、そもそもその差はいつ、どこで出来たのか、と。それこそモビー・グレイプの思う壷であり、あなたはその罠の顎にそろそろ入り始めたのだ。

続く「8:05 」を嫌うのは簡単だがちょっと待って欲しい。ここでの各ヴォーカル・各楽器の徹底的なインター・プレイほど贅沢なご馳走はそう聴けるもんじゃない。フォーク・ロックからラヴ&ピースとレイド・バックを抜きパンク的な性急さでコンパクトに煮詰め、たった2分22秒の間に全てのワザを詰めこんだらアメリカン・ロック版ビートルズのできあがりだ。4、5人ヴォーカルとトリプル・ギターの粋が活きており、カンケーないがバッドフィンガーの「ラヴ・タイム」を想わせる。

「リッスン・マイ・フレンヅ」ならぬ6曲め「オマハ」はパンキッシュなブルーズ+カントリー+フォークといった趣きか。もはやここに至ってはそれらの細かいジャンル分けは無用で、アメリカン・ルーツ・ミュージックが大枠では祝祭空間の音楽であるという側面だけがクローズ・アップされてくる。マッカートニーのあの狂躁ギター・プレイも案外ルーツは伝統的アメリカ/ブリテン音楽のリック/リフにあるんじゃないかと意外なお勉強トピックも浮かんでくる。

11曲め「チェンジズ」は判りやすくロック的にハード・ドライヴィングなノリの良さだが、よく聴けばやはりその快感メソッドの多くがロック・プロパーというよりもブルーズ、フォーク、R&B/ソウル、カントリーからのものであることに気付く。クリーム等の所謂ブルーズ・ロックが好きな人も嫌いな人もともに虜にする魅力に満ちている。

続く「レイジー・ミー」も似たようなカッコ良さだが、とりわけベーシストのボブ・モズリーの作曲とベース・プレイのセンスが光る。ザ・バーズの「8マイルズ・ハイ」に通じる不協和で不穏なコード感がいかにしてフォーク・ロックからサイケデリック・ロックへと継承されたのか、などとまたしても興味をそそるトピックが浮かんでくる。ソウルフルとも狂信プリーチャー的とも言えるヴォーカル・スタイルも異様にカッコいい。



意図的に省略した暗め/スローめ/軽めな曲もけっして埋め草の駄作というわけではなく、むしろお寝み時の集中リッスンの内に細かな美徳がクセになり噛めば噛むほど味が出るタイプの曲ばかりだと言っていい。たとえばポール・ウェスターバーグ/ザ・リプレイスメンツのアルバムの多くがそうであるように、一聴して良いと感じられる曲以外にも佳作良作意欲作が目白押しというタイプのアルバムもあるものだ。パンク/NW出身者にはあたりまえに'60年代追体験/再履修を行う人が多いわけだが、モビー・グレイプほど見過ごされがちなバンドはそうないだろう。かなりリスキーな再履修科目になるが、新鮮な再発見行が大好きな人にはたまらない豊饒さがそこにはある。


 


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