マッドネス『ワン・ステップ・ビヨンド』の知られざる魅力を語っておかねば


'One Step Beyond...' Madness
『ワン・ステップ・ビヨンド』 マッドネス


さっそく前回の続きで ―

3. Night Boat To Cairo
キーボードのバーソンとヴォーカルのサッグス(グラハム・マクファーソン)の作。アラブ - アフリカ的、コロニアル文化的なエキゾティシズムをポップにパロディックに採り入れた、当時のパンク/NW系ポップ・ミュージックとしてはもっとも早期のものと言っていい一曲。この流れがストレイ・キャッツの「ユバンギ・ストンプ」や、後のピッグバッグやファンカ・ラティーナ勢のクラブ・ミュージック - ラテン/ジャズ/ファンク - コロニアル・サマー・ファッション...etcへと、80年代イギリスのロック/ポップの一大潮流を生んだ、といってはさすがに言い過ぎだろうか。だが後に、マッドネスが全体像として放つダンス/リズム・オリエンテッド・ミュージックというのは、ソリッドで生硬でアグレッシヴで「しなやかさ」に欠けた、たとえばザ・ジャムのようなロックロックしたロック・バンドのロックを凌ぎ、英国ポップ・フィールドを一時席巻することになる。リアル・タイムで経験していた者には、このハッピーさと狂躁感とおバカ感というのも「かっこよさ」に負けず劣らずロックの快感の一極だった。拒絶反応を起こす人がいたとしても、アルバムの続く曲群を聴く内にはほだされていくはずだ。

6. The Prince
トンプソンの作。前出のプリンス・バスターへのオマージュをこめたデビュー曲。プロパーなロック・ステディ/ダブ/レゲエの影響が濃く、いい意味で雑食性/折衷性の高いマッドネスの音楽の中ではルーツ性が高く垣間見られるチューン。ウラ打ちや四つ打ちやタメなど、80年代英国ロック/ポップに幅広く ― それこそXTCからブルー・ロンド・ア・ラ・タークまで ― 浸透することになる汎世界/時代的リズム&ブルーズ志向、脱プロパー8ビート・ロックの流れが既にして表れている。

8. (=B1.)In The Middle Of The Night
マクファーソンとフォアマンの作。曲・詞ともに鮮明に強力にキンクス性が表れたアルバム中屈指の傑作曲のひとつ。キンクス的マッカートニー的なミュージック・ホール伝承型ポップ性とセカンドラインにも通じるブラスバンド型ファンク性を併せ持つ強力チューン。マッドネスが既にこの時期から、後の汎ジャズ/ファンク系万能ポップ・バンドに成長するポテンシャルとキャパシティを持っていたことを如実に示す好例だ。歌詞は実にレイ・デイヴィスっぽい、市井の人々の表と裏、皮肉と同情を斜め読みする英国ワーキング・クラス特有のスタンスの効いた、下着泥棒の悲喜劇がテーマ。関係ないが、スーパートランプの「ブレックファスト・イン・アメリカ」あたりを連想もさせる。常に目立ちに目立つキーボードに隠れがちだがベースと低音ホーンはマッドネスの音楽性の隠れた土台のひとつ。それは下町土性っ骨ごたまぜファンクネスとでもいうべきものだ。

10. Razor Blade Alley
トンプソンの作。8と並んで、ジャズ/ファンク性のかっこよさが目立つ、地味なようで実はこれまたアルバム1、2を争う傑作。しょっぱなから目立ち、後に随所で歌うベースのかっこよさは、当時「直線的」ロックしかまだ知らなかった私には粘っこくしなるファンク音楽(というかファンクネス)美学の初体験というべきものだった。こちらはグッとセンチメンタルでロマンティックな歌詞で、下町リリカルな後のマッドネスの名曲群をすでに先取りしている。間奏部のジャズ的に走るベースが最大の聴きどころ、とか言うとこの曲の魅力を過小評価してしまうのが残念だが言っとく。



さてぶっ飛ばしに飛ばして語ったが、採りあげなかった残りの曲も実はまったく捨て曲なし、なのだ。かわいらしく文句なしに楽しいポップ・チューンの4の「Believe Me」、9の「Bed And Breakfast Man」、13の「Mummy's Boy」、14の「(They Call It)Madness」はどれも聴く人のフェイヴァリットになってもおかしくないデキだし、5の「Land Of Hope And Glory」のくっちゃべりラップ、7の「Tarzan's Nuts」、11の「Swan Lake」、12の「Rockin' In A Flat」はスカ/ロック・ステディの楽しさを端的に伝えるダンス・チューンだ。軍隊の訓練ソングの替え歌にすぎない15の「Chipmunks Are Go!」さえ、この一大パーティ・アルバムのトリを飾るのにピッタリでシャレてる。



アルバム一枚通して、ギョッとさせられる異形の曲や、どシリアス/陰々滅々たる実験曲や、単なる埋め草の駄曲やで、いい気分を分断されることなく聴けるアルバムをあなたは何枚くらい知ってるだろうか。けったいでエキゾティックなコミック・バンドに見えてその実、マッドネスはそんなアルバムをしっかり提示してくれる。ファーストにしてこの充実度と満腹感。ロック/ポップの楽しく柔らかく痛快で笑えてノレる部分 — マッドネスがその後も英国で支持され続けることになるのはダテやノスタルジーや国民性によるものではないのだ。





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コメント

ベストは...

とっかかりにはいいんですが、地味めな名曲がとりこぼされてることもあるんですよね。

ちなみに、再結成後はスカ・リヴァイヴァルのバンド、みたいになっちゃっててあまり興味が持てないのです...

ベスト持ってます

突然ですが
マッドネス、最大級のイギリスアリーナツアーを今冬に敢行
だそうですョ 90年代に再結成してたんですね
プロファイル
eakum の音楽レヴュー
Author:eakum
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