ザ・リプレイスメンツ「Merry Go Round」— パワー・ポップの魔術師#4


"Merry Go Round" The Replacements
「メリー・ゴー・ラウンド」 ザ・リプレイスメンツ


英国パンク/NWが出自の音楽ファンには、'80、'90年代以降アメリカに耳を向けた人もむしろ多いと思う。殊にロックンロール/パワー・ポップという底流/潮流に関してなら、「カレッジ・チャート系」とでもいうべき勢力の台頭によって、アメリカン・ロック・シーンはイギリスのそれの大勢よりずっと実り多いものになったからだ。



ニルヴァーナ、アージ・オーヴァーキル、ザ・ポウジーズ、マシュー・スウィート等々がその道で功と名を上げるバック・グラウンドとなったのは、小規模ヒットにとどまる地道で華のない活動を積み重ねていた無数のバンドが、彼らに先立って、または肩を並べて「カレッジ・チャート系」「オルタナティヴ・ロック」の勢力範囲をいわば英国パンク/NW勢力の遅れて来た飛び地のように打ち立て拡げてきた結果の、アメリカ人リスナーの好みと質の変化と言えるだろう。そんな変化をもたらした立役者としてジェーンズ・アディクション、ザ・ピクシーズ、ソニック・ユース等の名は挙がりがちだが、ザ・リプレイスメンツの名がいまいち十分に挙げられないのを私はかなり悔しく/残念に/もったいなく思う。



すでに音楽雑誌と縁遠くなっていた私は、例によってFENのジョー・ライリングの番組で遅ればせに彼らを知った。'90年に2曲の必殺チューン「Merry Go Round」「Happy Town」が頻繁に流されていたのだ。ザ・キンクス直系の、例のコード・リフとバス/スネアの連携ビートは、一聴でパワー・ポップ愛好者を虜にする独特の香りを放っている。ルーズなのらくら感と立ち上がり鋭いタイト感、笑っているのか嘆いているのか投げやりなのか前向きなのかわからないヴォーカルのとっぽいハッピー感はジ・オンリー・ワンズの「Another Girl, Another Planet」やザ・ストロークスの「Last Nite」に通じるパワポ・メンタル調味料の重要な一味だ。ザ・リプレイスメンツはけっしてパワー・ポップ一辺倒のバンドでもパワー・ポップ道のエリート・バンドでもないが、10年選手にしてこれほど清新なパワー・ポップ・チューンを、それも苦闘の活動のかたわらにひょろりと生んでしまうところに無冠の一流どころの匂いがある。ド派手で爆発的な世界的ヒットとなったパワー・ポップの歴史的傑作群を一通り平らげたら、その次の教程で手を出してほしい地味だがちょっといいパワー・ポップだ。



「Merry Go Round」と「Happy Town」の複合的で重層的な愉しさ・かっこよさは、無能者の才能、才能ならざる才能とでもいうべきものが微に入り細に入り随所で何度も閃く様にある。初期のザ・キンクスの一連のパワー・ポップやザ・ナックの「My Shalona」などにはまさにミューズの訪れ、発明/発見の快感があり、それだけで人を魅了するに足る。それを作ったのはけっして万能の音楽的天才ではないが、そのロック的快感原則の発明/発見には天才的としか言いようのないものがあるのだ。対してこの「Merry Go Round」にはそこまでの画期性はなく、せいぜい再発見や再現の愉しみにとどまる。が!ウェスターバーグの真骨頂はその先の、これでもかこれでもかの入念緻密な研ぎすましのこだわりにあるのだ。ファースト、セカンド、サード・ヴァース、ファースト、セカンド、サード・コーラスは異なっていなければ、更には別のエクストラな快感を持ってなければならない。ヴァース、コーラス、ミドル・エイト、ソロ、ブリッジの構成はできるだけ普通じゃなく、ユニークで不安定で予測可能性を裏切るものでなければならない。ひとつひとつの楽器プレイのかっこよさはメインでコアな快感原則をなぞるだけでなく一瞬一瞬にアドリブ性の柔軟な変化を併せ持つものでなければならない。疲れきった自分はガチで典型的な、ストレートな怒りや疾走感や楽観や歓びを歌うわけにはいかない...。猛る若きロックンロールの天才の誕生の雄叫びとは対極にある、屈折したヴェテランがなんとか絞り出すなけなしのロックンロール・スピリットの混合テイストが、甘くも酸っぱくも辛くも苦くもあり、それでもやはり爽快なソーダ・ポップとして効くのである。



その収録アルバム『オール・シュック・ダウン』は結果的にザ・リプレイスメンツの最後のアルバムとなった。その後私は前に後ろに探求の手を拡げていき、リーダーのポール・ウェスターバーグをXTCのアンディ・パートリッジに並ぶ無冠のヒーローとみなすに至った。その音楽の軌跡はシリーズの一環としてレヴューしていくつもりで、このエントリをそのプロローグとしよう。


 


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コメント

Re: その名はジェリーフィッシュ

むむ!珍しい同好の士ですね、XTCとリプレイスメンツとは。
『スカイラーキング』、トッド、アメリカ的なソウルミュージックやAORと来たら
ジェリーフィッシュはお聴き及びですか?
たった2枚しか出してませんが1st.2nd.どちらでもオススメじゃないかと思います。

ザ・リプレイスメンツは後期の3枚を採りあげるつもりでいるので
気長にお待ちくださいませ。

No title

 はじめまして。大変楽しい文章で勉強になりました。
 私もあの頃、XTCとリプレイスメンツが好きでした。周りには愛好者はいませんでしたが。
 XTCは正直言ってスカイラーキング以外は分からないくらいでした。あのアルバムは奇跡のように素晴らしいとおもいます。他に思い当たるような類似の音楽はそれ以降出会っていません。英国的箱庭的心地よさもあるのですが(誤解を恐れずに書けば)トッドのアメリカ的なソウルミュージックやAOR的なセンスも力を貸しているのかもしれません。
 リプレイスメンツに関しては、私はドント・テル・ア・ソウルに尽きました。あの気だるいようなアコースティックなサウンドは、かなり微妙なバランス感覚の中にあったと思います。やはり類する音楽に出会っていません。ぜひあのアルバムについてもご意見が読みたいです。
 抽象的な感想ばかりで伝わりにくいですがここで失礼します。では。
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