ザ・ケイヴドッグズ「I I I」— パワー・ポップの魔術師#5


"I I I" The Cavedogs
「アイ、アイ、アイ」 ザ・ケイヴドッグズ


ザ・ケイヴドッグズは、よっぽどのロック・マニアであるか'90年代にFEN/AFRTSのラジオ — 殊にジョー・ライリングのオルタナ/カレッジ・チャート番組を聴いていた者でなければ、知らないし知りようもないバンドだ。2枚のアルバムを出すにとどまり、ヒット・シングルといえる曲もない。だがその名は、私にはジ・オンリー・ワンズやザ・ラーズやザ・ストロークスに並んでけっして忘れられないものとなっている。必殺のパワー・ポップをただ1曲でも放った者は、パワー・ポップ・ファンの記憶から消えることはない。



'80年代末から'90年代初め、アメリカの「オルタナティヴ・ロック」シーンには似たような小粒/中堅の、しかしながら素晴らしいパワー・ポップ・センスを持つバンドがあふれていた。レッド・クロス、マテリアル・イシュー、トード・ザ・ウェット・スプロケット、ヤング・ターク、ドラマラマ、ザ・ポウジーズ、ジェリーフィッシュ、etc、etc... そう、わざとビッグな名前が入れてあるが、「ラジオで耳にした必殺の1曲」が良いアルバムや続く良い1曲につながった者たちがその後のビッグ・ネームとなり、そうでない者たちは儚くいつのまにか消えていったのだ。



それなりにウェル・メイドで十分に「通して聴ける」セカンド『ソウル・マーティニ』は、初期のコステロやジョー・ジャクソン、ファーストのブレンダン・ベンソン、そしてどこかしらザ・ジャムを想わせる、堅実で元気な新人ロック・バンドのヴァラエティに富んだ良品アルバムだが、おそらく「ロック史」上ではなんでもない作品だ。それでも8曲めの「I I I」はパワー・ポップ史上に残すべき泣かす名曲だ。ビートルライクなギターのイントロ/テーマ。タメとツッコミにタイトさとシャッフル感をみせるセンスのいいドラム。ヴァース、コーラス、ミドル・エイトに微塵の隙もなく、マッカートニー/バッドフィンガー的に、愛における自意識の欺瞞と不確実性と葛藤が嫌みのない自然体でシャープにクールに歌われる。それは控えめに言っても、ザ・ポウジーズの「Golden Blunders」やブルジョワ・タッグの「I Don't Mind At All」並みには評価を受けていい傑作ビートルライク・パワー・ポップであり、'90年代アメリカのパワー・ポップ土壌の豊かさと広さを如実に示す好例でもある。



どういうわけだかアメリカ・シーンは、もっと小粒なファースト『ジョイ・ライヅ・フォー・シャットインズ』ほどにもセカンド・アルバム及びこの屈指の名曲を評価せず、ザ・ケイヴドッグズは2枚のアルバムを残すのみで解散してしまう。ベーシストでヴォーカル/ソングライティングのブライアン・スティーヴンズはその後、御大XTC勢(グレゴリー、パートリッジ)の両想い的寵愛を得てソロ・アルバムをも完成させるに至る。パワー・ポップ数寄者の先見の明が後にそんな形で証明されることになろうとも、ザ・ケイヴドッグズのあり得た正常進化に比べれば素直に喜べるほどのことでもないのだ。


  


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