XTC『ザ・ビッグ・エクスプレス』を独断レヴュー


'The Big Express' XTC
『ザ・ビッグ・エクスプレス』 XTC


書籍『チョークヒルズ・アンド・チルドレン』によれば、XTCのアルバム制作環境は常に満足のいくものとは程遠かったらしいが、とりわけこの『ザ・ビッグ・エクスプレス』は内外ともに最悪に近い状態で作られたものと言えるかもしれない。前作『ママー』の制作途上でドラマーのテリー・チェンバーズが脱け、その損失は単にドラム面のみならず、ギター・バンドとしてのXTC全体のリズム面アプローチに、さらにはサウンド空間作り全体にまで悪影響を及ぼしているとさえ言えよう。アンディがいじくりまわしに夢中になったというリン・ドラムのみにとどまらず、なんだかゲイリー・ニューマンあたりのシンセ・ポップを想わせるブ厚く重苦しいサウンド・テクスチュアがXTCらしくない変なハードさのみを生んでいるのだ。シンセサイザーとスタジオ・エフェクトによる音作りが悪い、と一概に言えるものでもないが、私はどうしてもA-1、A-3、B-3、B-5の、アルバム1/3強を占める「ハード」だが躍動感とスリルに欠ける曲が好きになれない。



にもかかわらず、好きな曲はものすごく好き、という状態のせいで、やはり私はこのアルバムを単に出来の悪いアルバムとして捨て置くことができない。以下の各曲詳解では、文の分量で目一杯えこひいきしつつも、未聴リスナーへのガイダンスともするべく頑張ってみる。



A-1. Wake Up
コリンの曲。2本のギターによるトリッキーなリフが面白いが、プログレちっくな陰鬱な重厚さとシニカルな歌詞がツラい冒頭1曲め。XTCの持ち味のひとつ(と言うべきかどうか)、インダストリアルでオルタナティヴなモダン・ロック、みたいな部分が強い、みたいな?

A-2. All You Pretty Girls
うって変って楽しくかわいらしい、おもちゃポップで疑似アンセムな佳曲。アンディのオハコの「海」モチーフ・ソングの好例のひとつで、前々作『イングリッシュ・セトルメント』と次作『スカイラーキング』をつなぐ目立たないミッシング・リンクとも言える。『セトルメント』が4人編成ギター・バンドのサウンド・スケープ描画能力を限界まで追求したアルバムだとすれば、『スカイラーキング』はギターがギターの音を出そうが出すまいが、何の楽器が何の音を出そうが関係ない、という所までアルバムでの描画能力を推し進めたものである。この曲、及びその他の佳曲での楽器プレイ/サウンド使いのカラフルさは、そんなレコード・メイキング・ユニットとしてのXTCの、目立たない再出発点と言えるのではなかろうか。トラッド/ミュージック・ホール/フォークロア由来の、黒人音楽とも「ロック」とも関係ないブリティッシュ・「ポップ」の粋が、いよいよ「ロック・バンド」の枠を超えて自由自在に追求されるようになった、とも見れるわけだ。

A-3. Shake You Donkey Up
今となっては聴くのが非常にツラい、エクセントリックでスラップスティックなけたたましいポップ・チューン。カントリー的な軽妙なギターのリフがリズムのコアにありながら重たく硬いレコーディング・アプローチが台無しにしてる、とさえ言い切って捨て置きたい。XTC未経験者には、それでも充分楽しめるかもしれないのだが。

A-4. Seagulls Screaming Kiss Her, Kiss Her
ひねくれて皮肉っぽく、かつ自虐的にユーモラスなラヴ・ソングばかり書くアンディの、珍しいくらいストレートでたわいのないかわいいラヴ・ソング。恋する男の、臆病にそろそろ前進する心象を、立て続けのきらびやかで童話チックな比喩で語り、隙なく楽しくスリリング。マッドネスにも通じるダルでグルーミーながら暗くはないマイナー・コード使いにブリテン性が感じられる。ゲストの吹くユーフォニウムのぶっとい音色も実にビートルライクでノスタルジック。「Pretty Girls」に続いてまたしても「海」ソングで、これまた一種の「海」ソングの次曲にバトンを渡す。

A-5. This World Over
ザ・ポリスを意識的にパロるかのようにもろパクリしたサウンドを持つが、そんなことが全く問題にならないこのアルバムの白眉のひとつ。癇癖で爆発的なプロテスト・ソングはアンディの作風の中でも重要な一翼だが、過去のたとえば「Living Through Another Cuba」、たとえば「No Thugs In Our House」などと比べてみれば、その作風がよりユニヴァーサルでよりディープな、まさに「グレイト」なソングライターのそれとなっているのが如実に感じられるはずだ。それは次作『スカイラーキング』や「Dear God」とそれ以降へとつながるものであり、不出来で不作で不遇なこのアルバムの時期にあってもバック・グラウンドでひそかに確かに育っていたわけである。
一見する分にも強烈な制度宗教独善世界批判、『猿の惑星』的黙示的SF寓話による現代文明批判が感じられるが、アンディのヴィジョンはそれ以上に深く広いところまで熱く達している。愛や歓びや自由を抑圧するすべての強制力と欺瞞、自分の気分を最後まで守り続けるためには真実にさえ目をつぶるヒトという哀しき生き物の、何千年繰り返しても治らない言い訳病質。若き諧謔の天才が、涙が出るほどに怒りに打ち震え同時に未来の世代と希望に向けて祈るような衷心からのブルーズを絞り出す成熟した詩人となっている。
ひとつひとつの歌詞のフレーズが、モチーフが、単語選びが、脚韻が、これほどまでに美しく力強いXTCソングを私は... — いや、知ってはいるが20曲は挙げられない。もしXTC全史から「名曲」を10曲だけ選ばなければならないとしたら、最初の3、4候補としてまっさきに浮かんでくる曲だ。セカンド・コーラスの「You sadly grin」に続く間奏部のカモメ声SEとシンセが見せるサウンド・スケープは、いまだに私を必ず泣かせる。



そう、もう充分に長すぎる。だが「This World Over」についてはどうしても長文が必要だったのだ(笑)。いつものようにまた次エントリに続けよう。


 


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