XTC『ザ・ビッグ・エクスプレス』を独断レヴューB面


'The Big Express' XTC
『ザ・ビッグ・エクスプレス』 XTC


さっそく前置き抜きで
『ザ・ビッグ・エクスプレス』B面のレヴューいっとこう。
例によって文字数の多さはひいき度を表している。



B-1. ( The Everyday Story Of ) Smalltown
ザ・ビートルズで言えば「Good Morning, Good Morning」を想い起こさせる楽しくかわいらしく威勢のいいポップ。ザ・キンクス〜マッドネス枢軸にも通じるイングランド下町系「皮肉と同情」型の「町」ソングであり、XTCとしては珍しく(?)ノスタルジーや愛着・哀惜が現代批判型シヴィア視線を上回ってユーモラスに披露されている。音楽スタイル的にも、黒人音楽由来のR&B/ロックを云々するよりザ・ビートルズ、ザ・キンクス、マッドネスに通底するミュージック・ホール性を云々すべきタイプの曲であろうし、故にXTCに先鋭的で激しい「ロック」を求める向きには箸にも棒にもかからない駄曲、となってしまうとも言えるかもしれない。

B-2. I Bought Myself A Liarbird
何度も言うが私は、このアルバムがXTCのアルバムの内でどれだけ下位のものと目されようと、数曲のフェイヴァリットな名曲のためにどうしても捨て置くことができない。このアルバムは、超極論すればA面ラストの「This World Over」とこの曲だけでも十分に聴く価値のあるものとなっている。
書籍『チョークヒルズ・アンド・チルドレン』やその他のインタヴューで、アンディ・パートリッジはこの曲を当時のマネージャーとの決別を歌ったものと発言しているが、そんな事実の裏付け/内訳話など全く必要ないほど、この曲で謳われるアンディ/XTCの音楽至上主義宣言・所信表明は明確で力強く、愛すべきものとなっている。歌の初頭で「イングランドの平均的夏の日のにわか雨」のように降りかかってくる音楽業界の嘘八百・おためごかしを矜持をもってお断りしたアンディ/XTCは、終局で「イングランドの平均的冬の日の太陽のように輝く真実」を見ることになる。世界ツアー、アメリカ進出、分かりやすい売れ線の追求、ミリオン・セラー、等々からXTCが離れ/身を引き、積極的な消極行為としてアルバムと音楽創作にのみ力を入れていったこととリンクするこの曲は、その点においてXTC至上屈指の「これがXTCだ宣言」ソングにもなっており、ポップ・ミュージックというアートへの信仰告白ソングともなっている。
音楽的には、『セトルメント』『ママー』から連なる汎民族音楽/空想プリミティヴ・リズム路線の三連シャッフルのドラミングにアンディ独特の奇っ怪で素っ頓狂な手クセテーマ・リフが絡み、ラウドで豪快なファンファーレが乱入し、唐突にビートルライクでドリーミーなパートが掌返しで現れ、と、かっこよく美しく笑えてパワフルでコメディックでペーソス溢れ...のポップ満漢全席だ。一筋縄でいかないロック/ポップのマエストロとしてのXTCを紹介する際にはこの1曲で事足りる、とさえ言っていい。

B-3. Reign Of Blows ( Vote No Violence! )
当時も今もスキップするしかない、ハードでラウドでそしてつまらない曲。気に入っている人が独自にレヴューすればいい、としか言い様がない。

B-4. You're The Wish You Are I Had
三たび、A面でも顕著だったアンディのたわいのないかわいらしいラヴ・ソング。不協和で不穏なコード感で快とも不快ともつかない一目惚れの始まりのドキドキ感が表され、文句無しのビートルポップのコーラスの解放感に繋がる。佳作・小品で済まされる良曲にすぎないとも言えるが、『ママー』とこのアルバムでアンディの「ラヴ・ソング」への姿勢がより気負いなく素直なものになったことは、その後のXTCのアルバムを語る上でも見落とせない1局面のヒントに思える。

B-5. I Remember The Sun
モダン・ジャズ/プログレを感じさせるがコリンの曲。ノスタルジーとペシミズムが変な方向に絡み、個人的にはまったく受け付けない。余談だが、このアルバムにはキンクス/マッドネス的な下町庶民感情/ノスタルジー/皮肉なユーモア/ペーソス路線がそこかしこに見え隠れする。ザ・デュークス・オブ・ストラトスフィアと『スカイラーキング』でしっかり実を結ぶことになるその路線の、試行過程の失敗作のひとつ、と言っては厳しすぎだろうか。

B-6. Train Running On Soul Coal
ハードでラウドでフリーキーなロック・パフォーマーとしてのアンディ・パートリッジが全開の、このアルバムでは唯一と言っていい成功したロック・チューン。とはいえやはり、誉れ高き「Living Through Another Cuba」などと比べればそのハード・ドライヴィングな部分の魅力は衰え、もしくは質的に変化してきているとしか言い様がないのだ。フリーキーなギター・ソロに初聴当時の私は狂喜したものだが、今聴き返す分にはその「ロック」な部分も「XTCなら当り前」程度のものである。



拙速に補足的な総括を付け加えておくと、XTCの(ほぼ)全史を鳥瞰する時、各アルバムの各曲ごとのXTCの業績 ー 打ちたてた金字塔は、各アスペクトごとに時系列上に散在している面がある。「泣かせる名曲」を探す時、われわれは最初の4枚を探る必要がない。「前衛的おもちゃ箱ポップ」を探すなら、3rd.『ドラムズ』5th.『セトルメント』9th.『オレンジズ』と飛び飛びになる。「エスノ/トラッドなグルーヴ」なら5th.の余韻が6th.『ママー』7th.『スカイ』を経て9th.で再び盛り返す、と言った具合だ。そんな中にあってこの『ザ・ビッグ・エクスプレス』は「どういうアルバム?」と訊かれて答えに困るアルバムでもある。私は敢えてそこをブリティッシュ・ポップネスに絞ってかわいらしさと楽しさに焦点を当ててみた。ここでのXTCの「ロック」性に不足があるとしても、それはあくまで「XTCにしては」の限定条件付きでのものであり、追体験探求の学徒に向けた物言いではない。ポップの分野でのみならずロックの分野でも、あなたはあなたでまた別の価値をこのアルバムに見出だすはずである。


 


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コメント

Re: いつもお読み頂きありがとうございます

ザ・ビートルズに関しては同意です。パンク/NW出自の私には『ラバー・ソウル』『リヴォルヴァー』『ペパーズ』がベストで、「ポップス」としてのビートルズとそのファンにはほとんどシンパシーを感じません。

私の『エクスプレス』評、およびその評価基準は主に「成功した試みとそうでもない試み」という視点に基づいています。私にとっては『セトルメント』と『スカイラーキング』こそが最も成功した前衛的試みであり、それは成功しているゆえに結果的に「ポップでもある」との考え方です。(あくまで私の独断と好みで言えば、です)

もちろん、個人的な好み/偏好というものはあるものの、私にとってのXTCのもっとも「前衛的な曲」たちは同時にもっとも「前衛的に聴こえない」ものです。一例を挙げれば「Travels In Nihilon」と「Beating Of Hearts」。同じように(たとえば)呪術性、プリミティヴ・リズム、反復トランス高揚感を目論んだものとすれば、「Beating」のほうがよりこなれ、より深く踏み込まれ、より自家薬籠中のものとなったがゆえに、より当り前で、よりポップで、より複合的価値を併せ持つものになっていると言えるでしょう。XTCの最大の魅力は、常に進化/深化を続け、失敗した試みも必ずどこかで挽回し、なおかつまた別の試みにも手を伸ばし新たに始めていく、そんなところにあるでしょう。そうした観点からすれば、私にとっての『エクスプレス』は全体に渡って成功した試みに満ちあふれているものではない、という話なのです。

「XTCの最大傑作アルバムは何か?」という問いは、コアなXTCファン100人にアンケートを取ったとしても5つにも6つにも票が分かれるものでしょう。「『エクスプレス』は傑作か否か?」というのも、結局は個々のファンが己独自のレヴューでもって問うていき、それを読む人がまた個々に判断していく ー それ以外/以上の是非はそもそもないものでしょう。充実したXTC評/XTC言説というのもそんな土壌からしか生まれ得ない ー 私はそんな視点から私自身のレヴューを書くのみ、なのです。

No title

こんにちわ、
力のこもったレビューをありがとうございます。
でも、ファンとしては残念です。大傑作と書いて欲しかったですけれど。
私が、十代の頃に買ったビートルズの『リボルバー』、日本盤で、もうリンゴのレーベルになっていましたから、発表から、10年以上経っていたと思いますけれど、そのインナースリーブのライナーノーツには、何か新しいことをしようとしたのだろうけど、結果は散漫で失敗作、と言う様なことが書かれていました。(当時の一般的なビートルファンは、まだ、『ヘルプ』辺りまでが好みで、『Sgt. Pepper』辺りは受け付けられないと言う感じでした。) でも、今は、多くの人がフェイバリットに挙げている様です。XTC の『BIg Express』もそうなるように願っています。
プロファイル
eakum の音楽レヴュー
Author:eakum
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