普通なのにワン・アンド・オンリー。ポール・ウェスターバーグのスゴさをまず概説


'14 Songs' Paul Westerberg
『14ソングズ』 ポール・ウェスターバーグ


ポール・ウェスターバーグ/ザ・リプレイスメンツの魅力を語ることは、易しいようで難しい。'80/'90年代からの所謂「(アメリカン・)オルタナティヴ・ロック」のファンであれば、言うまでもなく、ア・プリオリに、素晴らしいから素晴らしい、説明・証明するまでもない、Q.E.D.、で終わるところだろう。



だが、私が私のタスクとするのは、すべてのロック/ポップ・ファンにポール・ウェスターバーグ/ザ・リプレイスメンツの魅力をできる限り伝え、殊に「スルーしている」「スルーしてきた」という人々にまで伝えていくことである。その際私は特に、英国パンク/NW出自の人、ブリット・ポップ出自の人を重要にして必須な仮想ターゲットに置いている。ぶっちゃけ早い話が、ポール・ウェラーのファン、XTCのファン、ジェリーフィッシュのファン、バッドフィンガーのファン、ザ・キンクスのファン(以下省略多数)にこそ、ウェスターバーグ/ザ・リプレイスメンツを聴いてみてほしいのだ。そしてその際、彼らを説得するのはけっして易しいと言えることではない。



戦略上の仮の話として、XTCファンを例にとってみよう。この場合XTCファンが最高の難敵と言えるからだ。どんな部分でXTCのファンであるのかを問わず、XTCファンはXTCを特別なバンドとみなしており、まさにその特別な部分に魅かれてこそファンであるわけだ。そんなXTCファンが — 特段に珍しいという程ではないエンスーな音楽ファン、ロック/ポップ・ファン ー が、ポール・ウェスターバーグの1st.ソロ・アルバム『14ソングズ』を聴いてみたとしたらどうなるだろう?「何だこれは、フツーだな」「普通のアメリカン・ロックじゃね?」「別にこんなのは、聴いても構わないが聴かなくても構わないな」「どうしたeakum、もっと特別なものを紹介してくれるんじゃなかったか?」と言いかねないし、また言って当然、でさえあるだろう。そう、まずネックになるのはウェスターバーグの音楽が多かれ少なかれ良くも悪くも「普通に」聴こえるという点にあるのだ。



ところが、だ。もし誠実で貪欲で熱心な音楽ファンである場合、彼はせっかく手にしたそのアルバムをほんのついでの機会・時間をみつけては2回3回と聴いてみてしまう。「これはクソだ」と一聴のもとに切り捨てることが時として「もったいない」ことにつながるのを過去の経験から知っているからだ。少なくともこのアルバムは聴いていられないほどにひどいわけではない — そう自分をなだめつつ、このXTCファンは『14ソングズ』を通しで、特に気を入れるでなしに、暇な時に都合3、4回聴いてみる...



するとどうだろう。ある時、いつのまにか、彼は1曲め3曲め7曲め10曲めをより好んで聴いている自分に気付く。彼は一方で不思議に思う ー なぜこんな、ストーンズやトム・ペティやグリーン・デイや、せいぜいでキンクスやバズコックスあたりを彷彿とさせる、限りなくフツーに近くアメリカンに近いロックがまがりなりにも俺の耳を捕えるのか、と。一方で彼は不思議でなく思う — この一見アメリカンなフツーのロックには、パンキッシュでキンクスライクなロックンロールの勘所と職人気質の完璧主義と鮮やかでユニークなグルーヴへの創意工夫が見られ、それは何であれ謹聴するに足るものだ、と。



さらに重ねて聴きこむ内に彼は、このウェスターバーグというヴォーカリスト/ギタリスト/ソングライターがとんでもなく利かん坊の完全主義者であり、ギターのみならずベース、ドラム、キーボード、サックスにまで手を出し執拗にオーヴァーダブを重ね、何としてでも自分の目指したグルーヴ/ドライヴをレコーディング/プロダクトに刻みこむためになけなしの才のすべてをこれでもかこれでもかと投入し尽くすレコード作りの鬼であることに段々と気付いていく。リチャーズ流のコード・リフを骨格とした軽めのパワー・ポップにさえ3、4本のギターとマンドリンが重ねられ、一分の隙もなく退屈な1小節もないよう入念に磨き抜かれ仕上げられていることに気付いていくのだ。いまや彼は、どんなに大味そうな標準的ロック・チューンであっても一聴のもとには捨て置くことのならない曲の詰まったアルバムとしてこの『14ソングズ』を尊重するに至った。それは聴けば聴くほどスルメのようにの典型であり、細部の冴えを発見する歓びに満ちあふれた地味めの傑作であるのだ。



たとえば以上のように、XTC好きの海千山千の音楽ファンでさえポール・ウェスターバーグに魅了され得る。となれば、多くのロック/ポップ・ファンがウェスターバーグをスルーし続ける合理的な理由などそうあるだろうか。欠くべからざる概説を一応終えたところで次回は各曲詳解に移ろう。


 


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