ポール・ウェスターバーグ『14ソングズ』紹介までの助走


'14 Songs' Paul Westerberg
『14ソングズ』 ポール・ウェスターバーグ


ウェスターバーグの音楽の軌跡を語る上でこの『14ソングズ』を初っ端に持ってくるのは、実は便利で有益なやり方だ。「名前くらいは知ってはいたがたまたま手を出していなかった」というバンド/ミュージシャンに最初に手を出す時、あなたは律儀にその1st.から時系列順に追っていくだろうか。たまたまそのデビュー時に運良くしかも強烈な出会いをしない限り、そんなことはむしろ少ないだろう。たいていはたまたま耳にとまった良曲1曲から最新/直近のアルバムに手を出し、そこでの評価を元に前のアルバムに、でなければ次のアルバムに手を伸ばすかどうか決めるだろう。そう、そういう意味で『14ソングズ』はウェスターバーグとの最初の出会いに最適なのだ。このアルバムを気に入れなければ、その前のザ・リプレイスメンツのラスト『オール・シュック・ダウン』がこれ以上に楽しめるとは保証できないし、ましてやその前『ドント・テル・ア・ソウル』やさらにその前『プリーズド・トゥ・ミート・ミー』が気に入るとも思えない。「ウェスターバーグ節」と呼ぶべき作風・傾向と守備範囲は、アルバム毎のデキの上下は多少あれども一貫して時間を経るごとに正常進化し続けており、そんな視点から観れば『14ソングズ』が気に入る人なら前作、前々作も気に入る/気に入れる可能性は高いし、ソロ第2作『イヴンチュアリー』も気に入れる可能性が高い。



反対に、もしあなたが「できるだけ時系列順に」派の律儀な人で、ザ・リプレイスメンツの1st.『Sorry Ma, Forgot to Take Out the Trash』(長いので英字)から試した場合は... 私にはいっさい責任が持てない。あなたは必ずや「何だ、この屑パンクは?こんなの聴くならザ・ダムドを聴いてりゃいいし!」と怒りのあまりCDを叩き割って捨てるだろうし、しかも八つ当たりで私をも憎みかねない(笑)。



そう、シヴィアできかん坊な音楽リスナーである私のシヴィアネスに賭けて言っておこう。ウェスターバーグはその長くまがりくねった不遇にもめげずアメリカのロックの趨勢を大きく変えた立役者としてオルタナ・ゴッドファーザー的に尊敬を受けてもいるが、本当の敬意と好意は圧倒的にその音楽に向けられているのであり、その聴くべき音楽は(私見では)ザ・リプレイスメンツの5th.『プリーズド・トゥ・ミート・ミー』からである。



ではなぜ『プリーズド・トゥ・ミート・ミー』からではいけないのか。もちろんいけなくはない。『プリーズド』から俄然冴えを見せ始める曲作り・アレンジ・ジャンル的な幅・プレイとプロダクションでのシャレた大技小技・リズム認識とその表現の深化...を時系列順に追体験していくのは楽しいことではあり得るだろう — ただし、あなたがザ・リプレイスメンツ/ポール・ウェスターバーグをできる限りたくさん聴くぞとの決意をデフォルトで固めてしまっているのなら、だ。



そうでない場合、あなたはどこかで「たいしたことなくない?」とばかりに「離脱」する可能性が高くなる —「これならザ・ジャムのほうがよくね?」「これならオエイシスのほうがよくね?」「XTCなら中期にはこれ以上のことをやってたし」「ファイヴ・サーティ/ジェリーフィッシュ級のものを探してるんだが?」等々と口々に比較対象を挙げながら。



たしかにアメリカン二流ハードコア・パンクの有象無象としてデビューしたに過ぎない初期のザ・リプレイスメンツはもとより、『プリーズド』や『シュック・ダウン』を以てしても、ブリテンびいきのあなたを説得するのは難しかろう。だからこその『14ソングズ』、なのだ。『14ソングズ』を聴いてその地味ながら光る、ワン・アンド・オンリーな、聴けば聴くほどスルメのようにいろんな魔術が効いてくる魅力に納得した後なら、「ううむ、もう少しあの快感を」という探求モチヴェが働き始め、他のアルバムへの食指が動き始めるはずなのだ。



前回エントリで概説をたっぷり行ったにもかかわらず、まだまだアピールの勘所が不足気味な気がして再び概観的なことを語ってみた。「騙されたと思って」に決してノセられないあなたでもさすがにもう聴く気になってくれたのではなかろうか。次回、やっとで各曲詳解に入りまするよ。


 


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