ザ・ウォールフラワーズ「Thank You」— パワー・ポップの魔術師#11


"Thank You" The Wallflowers
「サンキュー」 ザ・ウォールフラワーズ


イギリス、というか英国、U.K.、ブリテンというのはおかしな国/地域でもあって、世界のロック/ポップを牽引するはずの地でありながら、びっくりするくらい優良なロック/ポップのミュージシャン/バンドが鳴かず飛ばずの内に消え去っていくのを知らぬげに見過ごす地でもある。まあ、日本だろうがスウェーデンだろうがアメリカだろうがそうっちゃそうとも言えるにせよ。



1986年といういわば「ロックの谷間の時期」にデビューし、ヒーローとしていたにちがいないアンディ・パートリッジによるプロデュースでセカンド・シングル「Thank You」を'87年に放ったザ・ウォールフラワーズ。その地味めながら大輪の花の芳しさを、おそらくブリテンの音楽ファンの大半はクラブ/レイヴ遊びにかまけて見過ごし、むしろ世界中で日本人だけが(あるいはスウェーデン人やベルギー人あたりが)熱い視線を送っていたことだろう。若手のパワー・ポップの魔術師見習いが手練のポップ魔術師の助けを得て物した「Thank You」は、ザ・ラーズの「There She Goes」やファイヴ・サーティの「Abstain」と並ぶくらいには人口に膾炙し賞味されていて然るべき傑作パワー・ポップである。



威勢のいいスネア6打から始まる3分40秒は1分の隙もなくビートルポップ色・デュークス色・パワー・ポップ色・ネオアコ色に染め上げられ、元々いい曲・唄・演奏・バンド文体を120%の魅力で打ち出している。前後するかほぼ同時期の、XTC&ジョン・レッキーのデュークス第2作『ソニック・サンスポット』の、殊に「Vanishing Girl」に通底するサウンド・プロダクションが、まっとうで実直なバンド演奏にキラキラ感ドリーミー感と随所でのヒネリを加味し、'60年代から2000年代のいつレコーディングされいつ聴かれたとしても変わるところのない普遍の不朽のパワー・ポップとなっている。敢えて喩えるなら、デビュー時のアズテク・カメラやザ・トラッシュ・キャン・シナトラズの逸る若気の元気さを老練で遊び好きなレッキー/パートリッジのようなプロデューサーがリスペクトと共犯者意識を持って全面協力し、珠玉の「レコード」を1枚作った、とでもなろうか — アルバム単位ならザ・ポウジーズの『ディア 23』に極めて近い。



'88、'89年にザ・ストーン・ローズィズによってブリテンに興るバンド/ロック/曲の復権にも引っかかることなく空中分解/自然消滅したかに見えたザ・ウォールフラワーズは、2010年に既発シングルを集めたコンピレーション盤『ザ・シングルズ』を、2013年に既発曲を含むファースト・アルバム『ラヴ・ピース・アンド・パグウォッシュ』を遂に放つことになったのだが、たとえば日本アマゾンでは早くも品切れ・プレミア価格付きであり、それでなくともボブ・ディランの息子の同名後発アメリカン・バンドと混同されてる始末である。「ザ・ミザリー!ザ・ミザリー!」とカーツ大佐のように呟きたくもなるってもんだ。嗚呼、パワー・ポップ!されどパワー・ポップ!



  


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