ブリテンの夏、ブルー・ロンド・ア・ラ・タークの夏


'Chewing The Fat' Blue Rondo A La Turk
『チューイング・ザ・ファット』 ブルー・ロンド・ア・ラ・ターク


ブリテンのパンク/ニュー・ウェイヴがその後30年以上にわたっていま現在にまで伝える影響の功績をひとつ挙げるとするならば、それは何にも増してまず「リズム認識革命」とでもいうべきものだろう。ブリテンの優秀なロック/ポップのバンドは、もちろん'60年代の昔から優秀なリズム認識をその身上のひとつとしてきたものだが、'60年代末 — なんならザ・ビートルズの凋落と解散を境とする辺りから、奇っ怪で不器用でなんなら独善的な、不細工な各種リズム/ビートが巷に溢れるようになり、それが所謂「オールド・ウェイヴ」のつまらなさの一環となっていたであろうことは、後追い学習者の無責任な感想としても出てこざるを得ないのだ。



たとえばザ・ポップ・グループの、荒ぶる性急で熱情的なダブやファンクやフリー・ジャズへの無謀な挑戦は驚きの迫力を生むものであるが、その後身ピッグバッグやマキシマム・ジョイやリップ・リグ・アンド・パニックの、より洗練されて「堂に入った」リズム/ビートの快感に比べれば不細工な試みとの誹りも免れまい。パンクのいわば基本理念であった「いま、ここで、すぐに」のDIY精神が音楽的深化に伴って若気の至りとして却下されるに至り「本格」への学習・鍛錬を経てより自在で強力なリズム/グルーヴを生んだ好例であろう。そうした流れはたとえばスウィング・アウト・シスターやマット・ビアンコやシャーデーやザ・スタイル・カウンシルにまで底流として及ぶのであり、「ニセモノからモノホンを超えるモノホンへ」という通奏低音として'80、'90年代の「良い音楽」の大半に遍在するとも言えるのだ。



何を長々と前置きしてるかといえば、狭くはファンカ・ラティーナ広くはクラブ・ミュージックの領域でニュー・ウェイヴが生んだシャレの利いたモノホンライクな本格フェイクの代表格として、このブルー・ロンド・ア・ラ・タークを紹介するための露払い論としてなのだった。「ロックの名盤100もしくは1000」みたいなものにはけっして挙げられることこそなかれ、ブルー・ロンド・ア・ラ・タークのジャズ、ラテン、ラテン・ジャズ、ファンクへのアプローチは本格にして確信犯、実在しない良きトロピカル・ブリテンの夏を幻視させる驚くべき説得力と快感に満ちている。それは遡ればア・サーテン・レイシオのようなアグレッシヴでパンキッシュなアプローチから降ってはザ・ブランド・ニュー・ヘヴィーズのような洗練オシャレなモノホン志向までを回顧し総括し予告するような、ブリティッシュ・クラブ・ミュージック・シーンの才気と意気地を濃密なスパートに詰め込んだ徒花ながらの金字塔なのだ。



'82年発表のファーストにして唯一のアルバム『チューイング・ザ・ファット』は、ゴドリー&クリーム、ランガー&ウィンスタンリー、マイク・チャップマンという錚々たるプロデューサー陣による4枚のシングルを含み、ジャンル・プロパー・ミュージシャンもかくやと思わせる堂に入った演奏術とバンド・アンサンブルと構成ダイナミクスを隙なく見せ、しかもそのすべてがシャレたフェイクを構築するという趣味人バンドの粋を極めている。物理的にはブリテン島に存在しない熱帯夜のダンス・ホールの暑さとトロピカル・カクテルの涼しげなくつろぎを44分間だけ現出せしめるマジカルな永遠のサマー・ナイト必携盤である。

1. Change
比較的ストレートにニュー・ウェイヴ流な16ビートのスピード感でアルバム頭から強めにカマす1曲め。ファンク/ラテン/ジャズ畑からのスリル・メイキング要素が所謂「ストレートでソリッドなロック」のもたらすドライヴ感に劣るものではないことを初っ端から如実に示す彼ら流パワー・ポップ。コーラス2後からピアノ・ソロ、ミドル・エイト、サックス・ソロ、ブレイクとなだれこむ中後半にこの時代のクラブ・オリエンティッド・ポップのかっこよさが凝縮されている。

2. I Spy For The F.B.I.
'60年代ソウル/ファンクからひっぱってきた実にスパイものっぽいカヴァー・チューン。比較的ストレートなモッド好みテイストの原曲を、スパイ映画ジャズ的オーケストレーションを派手に施しジャズ/ラテン風味のグルーヴを何層にも重ねた、2分半の短尺が信じられないほどに濃密な洒落た小品。

3. Coco
サルサ/カリプソ寄りの分かりやすくハッピーなラテン・チューンに見えて、イントロと間奏部に不穏でプログレッシヴなクール美学がのぞく。マッドネスの「The Return of the Los Palmas 7」にノれてザ・ジャムの「The Planner's Dream Goes Wrong」を嘲笑える人ならばっちり楽しめる佳曲。

4. The Heavens Are Crying
プロデューサー:クライヴ・ランガーも共作者に名を連ねる3作めシングル曲。9分半の長尺にキューバン/アフロ・ジャズ要素をてんこ盛りと野心的ながら、12インチ・シングル・リミックス的に装飾過剰な間延びに流れたこのアルバム・ヴァージョンは少々残念ヴァージョン。



オリジナルA面ラストで軽くノリがトーン・ダウンするところはボタンなりプログラムなりで早送りしてもらって、ゴリゴリのコアがまだまだ披露されるB面へと続けよう。


 


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