イングランドに咲いた南国の徒花:ブルー・ロンド・ア・ラ・ターク


'Chewing The Fat' Blue Rondo A La Turk
『チューイング・ザ・ファット』 ブルー・ロンド・ア・ラ・ターク


さっそく前回エントリA面終わっての続き、B-1から —

5 (B-1). The Method
リーダーでオーガナイザーでヴォーカル/MCでソングライターでもあるクリス・サリヴァン単体での作。ブルー・ロンド・ア・ラ・ターク、及びその後身ブルー・ロンドでの貢献でも明らかなように、一見言い出しっぺのボス格のインテリ趣味人にすぎないように見えなくもないサリヴァンは、作詞のみならず作曲にも大きく関わる主要メンバーであり、単体ソングライターとしてはコアでクラシックな歌ものジャズを愛しまた得意とする、なかなかイカすミュージシャンでもある。アルバム中もっともジャズ・プロパー色の強いこの曲では、ベース、ピアノ、ドラム、サックスの主要楽器群がめいっぱいジャズ的/ノワール的/ラウンジ的なメソッドとテクニックを存分に見せつけ、しかもそれらが '80年代ニュー・ウェイヴ流のタイトさから流れてはいない。マッドネス、ザ・ラウンジ・リザーズ(アメリカだが)、ジョー・ジャクソンズ・ジャンピン・ジャイヴ等にも見られたニュー・ウェイヴ勢のジャズへのアプローチは、その後ザ・スタイル・カウンシル、スウィング・アウト・シスター、マット・ビアンコ等を経て、たとえばザ・ストーン・ローズィズに代表される "ロックの復権" によりオサレ時代の徒花的気の迷いとして駆逐されることになるのだが、そこに聴ける音楽そのもののパワーと価値はやはりモノホンなのであり、「イケてる流行りもん好き人種」程度には出しようもないものなのだ。

6. They Really Don't
けたたましくアップ・テンポな派手ポップの内に、ファンカ・ラティーナの快感原則をコンパクトに凝縮して詰めこんだ佳曲。ブレイク時の変拍子パーカッションやタイト&ラウドなドラムに猛るスリル・シーカーとしてのロック・バンドの変型が窺える。

7. Sarava
アルバム中でも実は屈指の、コアでマニアックでエンスーなグルーヴ探求特化型の(半)インスト曲。サルサ、カリプソ等のラテン・アメリカ伝統だけでは片付けられなさそうな、スカ、ダブ、アフロ、アラビック、インダストリアル含めた実験アドリブ・セッション型の「曲」であり、アンディ・パートリッジやピッグバッグにも通じるマッドなお遊びチューン。地味めの小品ながらB面のゴージャスなヴァラエティを下支えする良曲。フィッシュの1st.『ア・ピクチャー・オヴ・ネクター』のお遊び実験インスト曲をも想起させる。

8. Klacto Vee Sedstein
ラジオでまったくのブラインド状態で聴いた私を1発で虜にしたシャレのめした傑作。ゴドリー&クリームがプロデュースの2作めシングル曲。ブルー・ロンド・ア・ラ・タークとは何かを1曲だけで完全に象徴し得る、ワザと素養と覇気とシャレっけをギュウギュウに詰めこみ、しかもそれを空っとぼけて差し出すような確信犯的キラー・チューン。ドイツ風人名を想わせるタイトルは当然「glad to be sixteen」のモジりであり、それが連日頭を悩まし離れないというクソバカ・ギャグだけで歌詞全体ができているという冗談音楽。ズート・スーツ/ザズー族の服装、キュビスム風ジャケット画と相俟って、ボリス・ヴィアンあたりをも射程に入れる趣味人性を感じさせるブルー・ロンド・ア・ラ・タークの名刺替わりの必殺の1曲。

9. Carioca
マイク・チャップマンがプロデュースの4作めシングル曲。いかにも夏のビーチ・リゾートのラウンジ・レストランなリラクシングなサマー・チューン。と思いきや、不穏にスリリングな間奏を経て1st.シングル「Me and Mr. Sanchez」の変奏で爆発してシメというシャレたエンディング曲。まったく関係はない筈だが、ザ・ストーン・ローズィズの1st.アルバムのシメをも想い起こさせる。



ご存じの人はご存じのとおり、この『チューイング・ザ・ファット』の後、ブルー・ロンド・ア・ラ・タークを去ったギターのマーク・ライリー、ピアノのダニエル・ホワイト(及びベースのキト・ポンチョーニ)はマット・ビアンコを結成し、ディジタル&ミニマルなジャズ/ラテンへのアプローチで見事チャートに返り咲く。ミュージシャン然としたミュージシャンを多く失いつつも絆の堅かったクリス・サリヴァン、ヴォーカルのクリス・トレラ、ドラムのジェラルド・ダービリーはブルー・ロンドと改名し、ニュー・ヨーク風味のモダンR&Bチューン「Slipping Into Daylight」や再びめいっぱいの、そしてこれまたNYダウンタウン風味のジャズ・チューン「Masked Moods」に続け、アルバム『ビーズ・ニーズ&チキンズ・エルボウズ』を放つが鳴かず飛ばずの内に消えていく。げに恐ろしきかなポップ・ミュージック。一時の奇跡の熱狂と光もまた、人間とその人生に懸かっているがゆえに。


  





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Author:eakum
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