早熟と老練、荒ぶりと古典 — ザ・ジャム『イン・ザ・シティ』をいまさら屋上屋でもレヴュー


'In The City' The Jam
『イン・ザ・シティ』 ザ・ジャム


私がこのブログで過去、折りにふれザ・ジャム及びポール・ウェラーの名前を、何かしら含みのある、どっちかというと貶し方向での引き合いに出している感があるとお思いの読者もいらっしゃるだろうが、それは違う。ザ・ジャムは私のロック/ポップの原体験の最初期の最大級のものであり、おそらくはマッドネスと並んでもっとも強力に私のポップ・ミュージックへの接し方を決定づけたものである。1970年代末、ロックといえばブリティッシュ・パンク/NWが王道にして最前線であり、ブリテンのパンク/NWといえば、ザ・ジャムが王道にして基本線にして中道にして最前線にして、順当にポピュラーでありながらシーンと時代を牽引するバンドであった。時系列を月単位で、遡って書誌学的に観ていってみても無駄足となろう — ファースト、セカンド、サード...とアルバムを重ねるごとに正常進化を順調かつハイ・ペースに遂げ、セールスと評価と音楽的前進と「人望」を問題なく拡大していったパンク出身バンドとして、ザ・ジャムに並ぶものはそうなかったのだ。



たとえばポリリズミックでファンキーなグルーヴとザ・キンクス的な斜め視点のイングランド性からなら、ちょい後輩筋のマッドネスは、日本人には想像もつかない「国民的人気」をUKにもイングランドにも誇る。たとえばザ・ビートルズの衣鉢を受け継ぎ前衛とポップネスを高次元で両立させてブリティッシュ・ロック/ポップの伝統と革新姿勢を後世に伝えた歴史上の傑物ならXTCに勝る評価を文句なしに受け取れるバンドはそういまい。だが、'70年代末から'80年代初盤におけるブリテン/イングランドの「リスナー」たちの心性を想う時、ザ・ジャムが良かれ悪しかれ「中道」「メイン・ストリーム」に立っていなかったら、マトリックスにして重力中心である「ロック」が、その後どう進んでいたことか — そんな視点からもザ・ジャムの価値には計り知れないものがある。



などなどと長めの挑発をぶちかまし、以降の時系列順のアルバム・レヴューへの布石を打ったところで、ファースト・アルバム『イン・ザ・シティ』のレヴューに入ろう。冬が来〜ればマッドネす〜♪よろしく、ザ・ジャムのアルバムもまた秋・冬のレヴューが相応しく、そのタイミングを実は計っていたのであった。例によって2エントリ以上にわたって冬まで続くであろう。



「ロンドン5大パンク」の一雄と称されることも多いデビュー当時のザ・ジャムではあるが、その音楽性には刹那的な破滅願望・破壊衝動のようなものはほぼないと言っていい。むしろ、「パンク」の文言・イメージに特別な期待を持って近づいた人には、妙に端正でマジメな面が意外の念を抱かせることだろう。ファースト『イン・ザ・シティ』は、ちゃんとしてて早熟なソングライターによる、ロックンロールの語り直しの側面を多分に持つ、モノクロームに地味めだが捨て曲・埋め草・失敗実験作のない、パンク期には妥当でもあり出色でもある良ロックンロール・アルバムである。

1. Art School
まさにアルバム1曲目!と言うには少し足りないA面1曲目は、逆に言えば、先行したデビュー・シングル「In The City」をアルバムの1曲目に持ってきたくない、ザ・ジャムはそんなショボいバンドじゃない、って自負の表れか。ギターの下降コードのイントロから既に'60年代の、特にザ・キンクス辺りのビート・バンドへの親和性を感じさせる。アップ・テンポの荒くスリリングなロックンロール・チューンで、殊にポール・ウェラーのべらんめえ調ヴォーカルにパンキッシュな同時代性が香るが、ミドル・エイトでのハイハット16ビートやラスト・コーラスのフロア・タム使いなどに曲構成への手抜かりのなさやスリル・メイカーとしてのセンスがしっかり感じられ、凡百のパンク・バンドとは一線を画す、タイトで端正で学習熱心で貪欲な、したがって優秀なロック・バンドとしての基本線が既に表れている。

2. I've Changed My Address
後にポール・ウェラーは、"あれほど好きだった筈の黒人音楽の豊かさやファンキーさをザ・ジャムではまったく追求できてないことに気付いて" 系の言及をザ・ジャム解散決定の経緯に関してするのだが、意外とというか当然にというか、このファースト・アルバムではパンク流にアップ・テンポ化されたギター・バンドによるリズム&ブルーズとでも言うべきレパートリーも目立つのだ。。性急で直線的な8ビートのドラムによって単純素朴な面白みのなさを獲得しているこの曲だが、テンポをダウンし各楽器プレイを練っている余裕さえもしあったならば、ずっとファンキーで味わい深くグルーヴィーな、小粋でイカすダンス/ポップ・チューンになっていたろうに、と想わせるさりげにモータウン調の佳曲。「Baby,baby,baby」がベバベイバベイバにしか聞こえないウェラーの発声に、その端正な美形に似合わぬ柄の悪さと背伸びツッパリ感が感じられて微笑ましい。



と、リードで紙面を取った分、各曲詳解を端折るのももったいない本末転倒なので、次回以降にみっちりたっぷり続けよう。


  





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