マッドネスのグルーミー&ブルーズィーな本領:『ザ・ライズ&フォール』


'The Rise & Fall' Madness
『ザ・ライズ&フォール』 マッドネス


冬が来たのでマッドネす!
サード『7』を採りあげた際の予告を裏切ってまたしても冬に、となったが、まあ、あながち間違いになってもいないだろう。タイトルではまるで賞讃の枕のように、グルーミー&ブルーズィーなところがマッドネスの本領であるかのように書いてしまってはいるが、私のホントのホントの本心はちょっと異なる。正味な話、私にとってのマッドネスの真のベスト作は、次の5th.『キープ・ムーヴィング』か6th.にしてラストの『マッド・ナット・マッド』だからだ。ちなみにだが、その直後のザ・マッドネスのアルバムや後年の再結成アルバムは除いて物を言っている。



前作『7』は、殊に曲のできの面において捨て・埋め草的なものが多く、またグルーミーでペシミスティックなシリアス面が泣かせる名曲にもハードなかっこよさにも結実することなくただひたすら暗いだけにとどまる、ってな傾向が大きく聴くにツラいアルバムとなっていたわけだが、この『ザ・ライズ&フォール』は大枠ではその延長線上にありながらも、曲のでき、そしてそれが由来するソングライティング・コンビの幅と充実によって、思いがけなくずっと良いアルバムとなったと言える。ファーストの汎グルーヴ快感バンドっぷり、セカンドの名曲メイカーっぷりが見失われることなく、なおかつサードで大きく分け入ることになったアクチュアルでシリアスで同時代的な「ロック」然としたヘヴィさハードさもうまい具合に加わっている。『7』でいささか独り舞台、もしくは二人舞台のきらいがあったキーボードのバーソン&サックスのトンプソンの作詞・作曲での比重が程よく減り、ギターのフォアマンの詞・曲への、そしてヴォーカルのサッグス(マクファーソン)&チャス(スミス)の詞・歌メロディーへの貢献が、ヴァラエティと質の両方でアルバムを豊かなものにしている。ザ・キンクスの『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』に準えられるようにマッドネスの「コンセプト・アルバム」と呼ばれることも多いが(そしてオリジナル盤の見開きダブル・ジャケットにもそれは窺われるが)、実際にはそうまでコンセプチュアルに固めてあるとも言えず、もしその辺にマイナス方向の食指の動かなさを感じる人がいるとしたら心配ご無用と言っておきたい。



A-1. Rise And Fall
マクファーソンとフォアマンの曲。
アルバム1曲めからダルでグルーミーなスタートだが、『7』のそれよりずっと良曲かつ2部構成リズムの覇気もある曲なため、むしろ自信と充実の表れと言える幕開け。ノスタルジックでブルーズィーな歌詞とメロディーの表題曲にアルバム・コンセプトが香るのも確か。

A-2. Tomorrow's (Just Another Day)
スミスとバーソンの曲。
1曲めを受けて、かつコテコテでイナタいくらいに十八番のマッドネス流汎リズム&ブルーズ風味が香るが、にぎやかし要員チャス・スマッシュからの脱却が始まったスミスの詞が光る上々の2曲め。セカンド以降の定番マッドネス印の安定して泣ける良曲。元々のメイン・ヴォーカリストであるサッグスの唱法に顕著な、呟くように短文で切る淡々とした歌メロディー・符割りはマッドネスの歌モノの大きな特徴なのだが、それを汲みつつやがて単独ソングライターとしても熟達していくスマッシュ/スミスの、一見地味だがデカい1歩。

A-3. Blue Skinned Beast
トンプソンの曲。
直接には当時のフォークランド紛争に向けられた、戦争と権力へのプロテスト・ソング。次作『キープ・ムーヴィング』に連なるモダンにソフィスティケイトされた独特のブリティッシュ・ポップ・ソウルの明るく爽やか風味のヴァース・ブリッジが一転、不穏で不協和なマイナー調のコーラスに繋がる逆説の告発メソッドが鮮やかでパワフル。すべての楽器プレイが絢爛にかつ驚くほど巧緻に過不足ないアンサンブルを見せていて「バンド全員でマッドネスというひとつの楽器」と言うべきこのバンドの強さの粋を改めて感じさせられる。ゴリゴリしたピアノ低音リフを骨格とするコーラス部のハードなファンクネスは、マッドネスの周知されざる独特のロック性を知らしめるに最適なかっこよさで、「Hip-hip」の掛け声符割りを追うのと合わせて緊迫集中リッスンの快感の焦点。



一見分かりやすい派手さに乏しく始まる『ザ・ライズ&フォール』は、かくしてサードのしくじりを挽回しセカンドから1段も2段も昇った豊穣な正常進化をじっくり見せ始める。全曲を足早にさらっと紹介するのは惜しいので、あと2エントリは要するだろう。









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Author:eakum
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