マッドネス『ザ・ライズ&フォール』、息切れ気味のB面


'The Rise & Fall' Madness
『ザ・ライズ&フォール』 マッドネス


聴き返してみてもやはり中盤の4曲を — ということは7曲入りの半分以上をすっ飛ばし気味に語らざるを得ない『ザ・ライズ&フォール』のB面だが、多分にそれは、1、2、3枚目と5、6枚目の、マッドネスの全アルバムを俯瞰で見渡しての私の厳しすぎるくらいの視点からであり、CD/MP3時代にあって全13曲を通しで聴く新参のリスナーには余計なフェア・プレイ精神からの辛口採点にもなるだろう。私見ではマッドネスの身上は、ロックンロール/リズム&ブルーズというメジャーなクラシックとスカ/ロック・ステディ/ミュージック・ホールというアンダーグラウンドなクラシックを渾然一体に自家薬籠中の身体グルーヴとして持つ独特なパーティー・バンドとしての初期と、そのルーツを活かし発展・深化・拡張させつつ歌・曲・レコーディング作品としてのクオリティ追求をも高度化させていった中後期の越境モダン・ポップ・バンドとしての価値にある。サードとこのフォースにある種のご乱心や未完成度が見られるとしたら、その当時のマッドネスや個々のメンバーやリスナーやが求めるマッドネス像・マッドネス観の間の差異のせいでもあるのだろう。



B-1. Our House
フォアマンとスミスの曲。
全米チャート入りをも果たしたマッドネス最大のヒット曲。イントロの低音ピアノとベースのユニゾン、現代音楽/プログレ界の手練:デイヴィッド・ベッドフォードのストリングス・アレンジで、初っ端からイングリッシュ・モータウンの傑作っぷりを予告するパワー・ポップ・ソウル。細かに入念に詰めこまれたコーラス・ワーク、ストリングス、ホーンに、続くアルバム『キープ・ムーヴィング』『マッド・ナット・マッド』に繋がるモダン・ポップ・ソウルの爽やかにもエッジの立った洗練が感じられる。ラスト・ヴァースの倍速符割りヴォーカルに作詞者スミスのこれまた後に繋がるミュージシャンシップの加速度的成長が見える。

B面2曲目から、このアルバムにあってはもはや今更の感もあるマッドネス標準クラシックとでも呼ぶべき可もなく不可もない4曲が続く。マクファーソン/バーソンの「Tiptoes」はミドル・エイトのシリアスに愁いを帯びたコード感が一瞬ドキっとさせるが後が続かない。バーソンの「New Delhi」はファーストの「Night Boat to Cairo」の語り直しにしてもいまや浮くのみ。マクファーソン/フォアマンの「That Face」のファンキー・サイケデリアはシリアスな歌詞の良さとチグハグだし、トンプソン/フォアマンの「Calling Cards」の陽気なおふざけの雑多な楽しさはファースト、セカンドにこそ似合っていただろう。
これらはもちろん、聴いていられないほどヒドいという曲ではないものの、厳しくも有り体に言って「もうそれは前に聴いたよ、マッドネス」と軽く同情をこめつつも言ってやりたくなるような曲群だ。新参のリスナー/ファンのあなたなら別の何かを見出だし得もしようが、それはまたあなたが書くべきことでもある。

B-6. Are You Coming (With Me)
トンプソンとバーソンの曲。
マッドネスにおいては年長でヴェテランの2人による、泣かす名曲。ダルでグルーミーな曲調にヒューマニスティックなエモーションの温かみを付け加えるのにリー・トンプソンのサックス及びマーク・ベッドフォードのベースは力あり、それはたとえば次作の「One Better Day」にも顕著だ。その歌詞の基調が後悔や自己憐憫から他者への手伸ばしやシンパシーへと比重を移していくトンプソンの作詞術は、いわば「後進」であるマクファーソンとスミスのソングライター/ヴォーカリストとしての成長をリードするものとなり、続く5、6枚目での2人の才の全面開花に繋がることになる。

B-7. Madness (Is All In The Mind)
フォアマンの曲。
カクテル・ジャズ/ジャンプ・ブルーズの色濃い、マッドネス得意のシャレのお寝みエンディング。マッドネスのアルバムにあっては盤石・鉄壁の定番の満腹デザート・パターンであり、この曲では殊にウッドゲイトのドラムの裏打ちセンスと音色、ベッドフォードのダブル・ベースの1発キメが聴きどころ。



回を追うごとに、即ちアルバムを重ねるごとに、辛口視点ゆえのすっ飛ばしが増えている感が否めない私のマッドネス・アルバム評だが、それは取りも直さずマッドネスのヴィジョンやタスクが高度化していったことの裏返しでもある。いよいよフェイヴァリットの5、6枚目に進むにあたり、レヴューに少しく不安を感じるところもあるのだが... 大丈夫!圧倒的に洗練され1音1音がブリリアントに粒立ちしたリスニング快感の豊穣アルバム『キープ・ムーヴィング』が控えているのだから。





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