ビートルポップ回避を捨て開き直ったXTCの底力、『オレンジズ&レモンズ』


'Oranges & Lemons' XTC
『オレンジズ&レモンズ』 XTC 


このブログでも折りにふれ書いてきたとおり、そして世界中の多くのリスナーが認めるとおり、XTCはザ・ビートルズの衣鉢をロック史上でももっとも正統に受け継ぐ英国ポップの雄であるが、それはザ・ビートルズに似ているがゆえにではなく、ザ・ビートルズの音楽的能力と実験精神とアプローチの幅広さを必要十分以上に持っているがゆえだ。私見と私的好みから言っても、5th.『イングリッシュ・セトルメント』、8th.『スカイラーキング』のようなアルバムに見られるヴァラエティと到達点と果敢なトライアルなどは、ザ・ビートルズの最良のアルバム群に比しても負けず劣らず、どころかむしろ凌駕しているとさえ言えよう — もちろん、時代の音楽的水準とそれゆえ際立つ画期性、また時代も世代も異なるリスナーへの影響の大小をも考えれば、そんなことは断言できるものではないのだが。



そんなXTCは、アルバムを時系列順に聴いてみればはっきり分かるように、ザ・ビートルズに似ないように似ないようにと敢えての回避路を採っていたフシがあった。が、『スカイラーキング』を前後で挟む1985年の『25オクロック』、'87年の『ソニック・サンスポット』というザ・デュークス・オヴ・ストラトスフィア名義での2枚のアルバムのおかげもあって、"好きなバンドに似てしまいそうになったらそれはそれでまた面白いじゃん" 的なポジティヴな開き直りでもってザ・ニュー・ビートルズたることを遂に引き受けたのだった。『スカイラーキング』には既にそれが大きく表れているが、続くこの『オレンジズ&レモンズ』ではもっと手加減なく遠慮なく、むしろセルフ・パロディ的なまでに大胆にそれが試されている。



結果的に現場は修羅場となったにもかかわらず傑作を産んだトッド・ラングレンとのアメリカ・レコーディング、古馴染みのジョン・レッキーとの2度目のデュークス遊戯を経ての、再びのアメリカ、それも夏のロスアンジェルスでのレコーディングがマジカルに奏効し、懐かしくも新しく、そしてやはりのXTC好アルバムができあがる。ひさびさに驚くほどラウドでパワフルでしかも明るい、なんならヴァージンの望んだとおりに "イングランド性控えめ" でアメリカでも売れそうな、円熟感と覇気に溢れたアルバムとなっているのだ。



実際、前作と「Dear God」の余波もあってアメリカでも好セールスをあげた『オレンジズ&レモンズ』だが、けっしてそれは「アメリカ向け」「売れ線狙い」のアルバムだったからではない。ここには、諦観をも伴った円熟味とそれゆえ逆説的に見出だされた「初心」のウキウキ、そしてザ・デュークス・オヴ・ストラトスフィアをも取り込んで何度目かの脱皮&再誕生を遂げた新XTCがある。パロディックなまでに寄せたビートルポップに加えて目立つのは、『セトルメント』とその前後に顕著に見られる架空ミックス民族音楽グルーヴへのテクニカラーな再アプローチで、このアルバム全体のブリリアントでカラフルな印象の基調の一端となっている。



とかいった長めのリードをいい加減打ち切り、各曲の紹介に入ろう。オリジナルはLP2枚組で、4サイドの構成や曲順には流れ上のまとまり・区切りが感じられるので、そちらに準拠した表記とする。

1-1. Garden Of Earthly Delights
驚異の新生XTCを、なおかつ従来からのXTCの紆余曲折経ての正常進化を早々と易々と確信させる、久方ぶりにアルバム1曲目からかっ飛ばす豪快で贅沢な痛快チューン。6th.『ママー』の「Beating Of Hearts」の直系となる生と人間への讃歌で、2児の父となってのアンディ・パートリッジの新生なったオプティミズムが、ファンタスティックなインド-アラブ風味とデュ—クス経由のサイケデリア遊戯で極彩色に炸裂する傑作。タイトルは当然、ヒエロニムス・ボスの「地上の快楽の園」に通じ、キリスト教をはじめとする天上的・絶対的な「善」を必要としないプリミティヴな善性に基づくポジティヴィティへの志向で『スカイラーキング』の諸作に繋がっている。ザ・ビートルズ中期のラーガ・ロックやペイジ&プラントの『ノー・クォーター』にも通じるモーダルでトライバルな大編成アンサンブルの妙が、異能のエレクトリック・バンドの執拗にして洗練されたアプローチで軽々とかつポップに実現されている。ノン・コーダルな浮遊感のヴァースからポップ王道のコーラスへ上昇するその瞬間の快感はまさに空飛ぶ絨毯の乗り心地。エキゾティックな吹奏楽器群のように飛び回るリード・ギター群の好き放題の傍ら、従前以上に緻密に豊穣に仕込まれたコーラス・ワークにレコード・メイカーXTCの本気が見える。



看板/名刺代わりと言える幕開けの1曲目から既に「買い」のシグナル充分の『オレンジズ&レモンズ』だが、続く2曲目でそれはさらに加速する。せっかくなので駆け足に端折ることなく、みっちり次回以降に続けよう。


 


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